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行方の知れぬ京一、醍醐、小蒔を探す為、雨紋が楢崎道心と名乗る老人と共に、結界を出て行った後。
残った龍麻、葵、如月、織部姉妹の間に、会話は殆どなかった。
その後、荒井龍山と如月が何か話があるとかで部屋を出て。
じっとしているのは苦手と言う雪乃に付き添うように、織部姉妹も庵の外で、二人氣を高めるように真言を唱え始め。
一種異様な空気になった小さな囲炉裏の傍らで、龍麻と葵にあったのも、やはり無音だった。
此処に来た時から――――いや、以前から、葵はずっと不安そうな顔をしている。
今も眉根を寄せ、表情を曇らせたまま、彼女は膝の上で握った手をじっと見詰めている。
きっと、今すぐにでも飛び出して行きたいのだろう。
京一も醍醐も小蒔も、大切なクラスメイトで、仲間で、何にも変えられない。
今年の春から五人が揃って、何度も死線を潜り抜けてきたのに、今正にその最中である筈なのに、此処にいるのは常の半分以下。
いや、人数が問題なのではない、傍にいる筈の姿が何処にもないから怖いのだ。
それぞれが拳武館と名乗る集団の刺客に遭った直後、彼らの下にもそれらは間違いなく現れただろう。
そして、此処にいないと言う事は――――――最悪の考えが脳裏を過ぎるのも無理はない。
けれども、どうしてだろうか。
龍麻は、彼女に比べて随分落ち着いていられた。
醍醐の事は心配だ。
少し前から、時々何かを考え込んでいるような節があった。
小蒔の事も勿論。
醍醐と一緒にいるのなら、まだ良いのだけれど。
葵の携帯電話も繋がらないと言うから、益々心配は募る。
………それから、もう一人いるのだけれど。
(京一は、大丈夫だよ)
数十分前に、自分自身が言った言葉。
殆ど無意識に、零れ落ちた言葉。
それぞれが不在の者への安否に不安を募らせる中、何故だろうか。
するりと思った言葉が口を突いて出てきたのだ。
そう思った理由なんてない。
漠然としたものだった。
龍麻は見た。
彼がいつも手放さなかった木刀が、まるで墓標のように大地に立っていたことを。
それも、柄の部分を失った状態で。
まるで刀の主が、それを手にする者が、既にこの世にいないような軌跡。
後は、降りしきる雨が流してしまったかのように、何も残っていなかった。
それを言ったら、目の前で不安げに震える少女は、きっと泣き崩れてしまうのだろう。
この場を離れた仲間達も、そんな莫迦なと言いながら、唇を強く噛んだだろう。
探す事も、もしかしたら諦めてしまうのかも知れない。
けれども、どうしてか龍麻は何も不安に思わなかった。
此処にいないことを、どうしてだろうと思う事はあっても。
(京一なら、大丈夫)
どうしてそう思うのかなんて、自分自身でも判らない。
ただ、その想いが揺らがない事だけが確実だった。
……自分で自分にそう言い聞かせているのかも知れない。
彼なら大丈夫だと、必ず来てくれると、そう思う事で、狂いそうな自分を抑制しているのかも知れない。
初めて出逢った時から、全力で正面からぶつかって来てくれた、親友。
あんなにも真っ直ぐに突き付けてくれたのは、多分、彼が初めてだったと思う。
それから京一はいつも近くにいてくれて、龍麻が何をしても受け入れてくれた。
一緒に背負ってやると言ってくれた彼は、その言葉通り、常に傍らにいてくれて。
それが今、すっぽりと隣の空間が空白で、酷く落ち着かない。
そんな自分を狂わないように、頭の中の歯車が少し可笑しな噛み合いを始めたのかも知れない。
彼がいなくなるなんて、そんな事は有り得ないと、目の前の現実を歪ませるように。
でも、それで良い。
噛み合いが狂ったのでも、信じているのは本当だ。
大丈夫。
大丈夫。
彼はきっと帰ってくる。
(大丈夫だよね、京一)
いつかの彼のように、自分は彼の下へ駆けて行く事は出来ないけれど。
此処でずっと、彼を信じて待っている。
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校庭に突き刺さった、京一の木刀。
あれを見付けた時、龍麻はどう思ったんでしょうか。
そしてそれを見ていながら、はっきり「京一は大丈夫」と言い切ったのは何故だろう。
……真面目に考えても、結局“愛!!”に行き着く腐った脳みそ(爆)。