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好きだと言う事。
愛されると言う事。
愛すると言う事。
………それは、夢見る乙女が思うほど、綺麗なモノではないけれど。
付き合っているといっても、公然とはしていない仲だ。
何せ世間一般の恋愛の仲ではないのだから、無理もない。
だから、こういう事もしょっちゅうあるのだ。
「緋勇君」
呼ばれて振り返る相棒に倣って、京一も足を止める。
半身になって後ろを見遣れば、其処に立っていたのは、名前は勿論顔に見覚えもない少女。
何か用と少女に尋ねる龍麻の横で、京一は少女の成り立ちを眺めてみる。
身長は日本人女性の平均よりも少し高めで、肉付きはグラマーと言うのが正しい。
髪の毛は薄らと茶色が雑じった色をしていて、多分染めてはいないだろう。
長さもショートカットにされており、化粧も余りしていない、けれどもすれば映えるだろうなと言った風。
少しボーイッシュな感じがする少女だったが、龍麻を前にしている今、花も恥らう乙女状態。
ほんのりと頬を染めながら、少女は胸の前で両手をもじもじと手遊びしていた。
あのね、といつまで言い澱んでいる少女。
その内京一は、少女がちらちらと自分を見ていることに気付いた。
くるり、京一は二人に背を向ける。
「京一?」
「先行ってるぜ」
ひらひら手を振って告げる京一の足取りは、自分の教室には向いていない。
屋上か中庭か。
少し考えながら歩いている間に、足は階段の下層を選んで進んでいった。
その間、京一は一度も後ろを振り向いていない。
だが自分がいなくなった事で少女が龍麻に何を告げたかは、大体予想が付く。
と言うか、一つ二つしかないのだ、こういうパターンは。
それも、今すぐ告げたか、呼び出してその後に告げるか、その程度の差しかないもので。
―――――こういう時、数少ない事情を知っているメンバー(京一に言わせて貰えば、勝手に勘繰って盛り上がって首を突っ込んでくる暇な奴ら)である、葵や小蒔、遠野は怪訝そうな顔をする。
今は此処にいないのでそれを見ることはないが、後日、遠野辺りが情報を拾ってきたらまた詰め寄ってくるのだろう。
彼女達が問うて来る言葉は決まっている。
「不安になったりしないの?」と。
それに対して、京一はいつも無言を貫く。
返す言葉がないのではなく、言葉を返すのが面倒臭いから。
何故なら、気にするような事でもないと思っているからだ。
どうしてか、なんて―――――――
いつものように中庭の木の上で、うとうとと舟を漕いでいた時。
かさりと大地を埋める落ち葉が擦れる音がして、閉じかけていた瞼を上げる。
見下ろしてみれば、予想通り、苺牛乳を飲みながら此方を見上げる龍麻の姿。
其処に彼以外の存在は見当たらず、どころか、もう中庭にいるのは自分と龍麻以外にはいなかった。
だから勿論、此処に来る前に見た女子生徒もいる筈もなく。
それが意味する事、想定される彼女の結果と言うものも京一には唯一つしか浮かばない。
「物好き」
見上げてくる龍麻を遥か上から見下ろして、京一は言ってやった。
正面から京一の受けて止めて、龍麻は気を害した顔をする事はない。
それどころか、あのふわふわと掴み所のない微笑を浮かべて、
「それは京一だよ」
等と言ってのけるから、京一はヘッと鼻で笑ってやった。
龍麻の言う事に間違いはないと自覚しているし、そして自分の言っていることも間違ってはいないと思う。
男を好きになる事、恋人として付き合っていること、可愛い女の子に告白されたのに断って男の下に戻ること。
自分と同じ男に好きだと言われて気持ち悪いと思わないこと、恋人として付き合うことを受け入れたこと、恋人が可愛い女の子に告白されるのに何も言わずにその場を離れた事。
……物好きのやる事と言わずして、なんと言おう。
特に、どちらでも良い、女子から告白された時だ。
男同士でひっそりと付き合うよりも、可愛い女の子と付き合う方が断然良い。
龍麻はどうか知らないが、京一はそう思っている。
けれども龍麻は告白されても断るし、何故だか京一もそうしていた。
断った後でなんてフったかなと頭を掻くのだが、相棒兼恋人の顔を見たらまぁいいかと考えるのを止めるのが常。
近くで枝葉の擦れ合う音がした。
顔をあげると、いつの間にか同じ高さまで昇ってきた龍麻が、丁度京一の座す太枝に手をかけた所だった。
「妬いた?」
「阿呆か」
腕の力だけで枝に登りながら言った龍麻に、京一は呆れた風に眼を窄めて答えた。
それに龍麻は、やっぱり、と笑う。
元々二人とも男好きの気があった訳ではなく、京一に至っては完全なノンケと言って良かった。
だから女の子から声をかけられた時は、京一は普通に嬉しいと思うし、付き合ってと言われたら少し考える。
素行不良さが目立つ所為で、そういう場面には中々逢わないが、それでも京一だって皆無ではないのだ。
龍麻は、何を考えているか判らない所はミステリアスと称され、ふわふわ笑う様は犬みたいだと言われる。
そんな訳で、二人ともそこそこモテるのだ。
恋人が誰かに告白されるとか、普通は妬いたり嫌がったりする場面なのかも知れない。
特に男同士の内密な関係であるから、女子生徒は心配の的である。
いつ恋人が移り気するか、こういう心配事は男女間の恋愛でも付き纏うものである。
だが生憎、京一はその手の感情にトンとお目にかかった記憶がない。
何故なら、
「向こうに行く気のねェ奴に、一々そんな事してられっか」
―――――そう。
龍麻は、あの時告白しに来た少女への答えを、最初から決めていた。
京一はそれを知っているから、妬きもしないし、葵達が言うような不安を感じる事もない。
きっぱりそれを言ってやれば、龍麻はくすくす笑い出す。
なんとも嬉しそうに。
龍麻も十分判っているのだ。
あの程度で京一が妬く事がないのも、そんな事を気にする性格じゃないことも。
自分が何を選択するのか、京一が判り切っている事も。
「うん。やっぱり僕、京一が好き」
「そりゃどーも」
それも判り切っている。
だから京一は、いつもおざなりな台詞で返す。
好きだと言う事。
愛されると言う事。
愛すると言う事。
それは、夢見る乙女が思うほど、綺麗なモノではないけれど、
…………くすぐったくて心地が良いのは事実だった。
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なんだってうちの龍京は、ほっとくと自由に動き出すんだろう。
そしてなんだって不思議な行動を取るんだろう……
お互いのこと愛してるから、相手がどんな行動を取っても不安にはならないんだよと。
お題添えてるのかしら……(汗)
非常に難しいお題でした。