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きれいだね。
そう言って龍麻が黙って立ち止まったから、京一も立ち止まった。
立ち止まって、数歩分離れてしまった相棒を振り返る。
龍麻の言葉が何を示してのものなのか、京一には一瞬判らなかった。
けれども振り返ってみて初めて、ああこいつらか、と合点が行った。
龍麻が見上げていたのは、不夜城を照らす無数のネオン。
地面の下から遥か天上まで、それらは無数に点滅し、交じり合い、溶け合う。
その様は綺麗と言えば綺麗かも知れなかったが、生憎、京一は初めて此処に来てから今日まで、ただの一度もそう感じた事はない。
ゴチャゴチャした場所だ、程度にしか。
「キレイ、ねェ」
一つ一つは確かに綺麗と言えなくもない。
店の看板、電光掲示板、街灯―――――それらは個別に分ければ、それなりに良く見えるだろう。
文字の配列や明滅の速度、発光ダイオードの何色を何処に配置するか、多分、ちゃんと考えられている。
しかし、京一の視界に見えてくるものは、看板も掲示板も街灯も、全部ごちゃ混ぜにした景色だ。
一所で計算されていた筈のものは、全体を見ると案外滅茶苦茶な計算式をしていて、答えも可笑しなものになる。
ぽつりと鸚鵡返しに呟いたきり、京一は口を閉じた。
龍麻と同じように、天上に光る人口の星を見上げて。
「きれいだよ」
同意は求められていないようなので、京一は何も答えなかった。
何度見ても、京一にはこの光景が綺麗であるとは思えない。
ビルの谷間の向こうにある、遥か彼方から降り注ぐ光は、人工灯に負けてしまって見ることが出来なかった。
あっちだったら、まだ幾らか良かったんだけどな、とは思うのだけど。
でも、龍麻にはこれらのネオンも綺麗に見えるのだろう。
相当な田舎に住んでいたようだから、物珍しさも手伝ってそう思うのかも知れない。
だったら思う間は思わせておけば良いと、京一はそれ以上の言はしなかった。
京一が歩き出すと、龍麻も歩き出した。
数歩分後ろにいた龍麻だったが、直ぐに追いついて隣に並ぶ。
すると、京一は頬に熱烈な視線を感じて其方を向いた。
「なんだよ」
「なんでもない」
「じゃあ見んなよ」
「うん」
うん、と言うので、京一はまた前を向く。
が、やはり隣からはじっと見つめる視線が続く。
こうなると言っても無駄だ、本人が飽きるまでこの状態は変わらないだろう。
頬になんかついてたか。
さっき喰ったラーメンの汁とか?
だったら言うよな、いや言わないか?
考えてみても、いつもと同じで龍麻の考えていることは予想できない。
何も考えてねェからな、とは京一の私見であったが、判らないのだから仕方がない。
本当に何も考えていない時もあるのだし。
それ以上、京一は龍麻の方を見ることはなかった。
じっと横顔を見つめられることも、気にしない事にした。
だから京一は知らない。
龍麻が何を見ていたのか。
降り注ぐ沢山の光彩の中に佇む君の、なんと綺麗。
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似たような話を前にも書いた。
進歩しないな、自分……
でもこういうの好きなんです。