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座布団の上に鎮座ましますは、ぼろぼろで綿の零れた小さな人形。
その人形は、(自分ではどうなのだろうとは思うものの)八剣によく似せて作られていた。
……この八剣人形は、壬生が八剣の仔猫にと手作りされたものであるのだが。
「気に入らないのかな」
ぼろぼろの人形を手に取り、見下ろして溜息交じりに呟いた。
仔猫がこれで遊んでいる所を、八剣は見た事がない。
ないが、仕事から帰って来た時は大抵此処に鎮座していて、一日経つ毎に凄惨な…いや、無残な……いや、哀れな………――――――とにかく、そんな姿になって行くのである。
ちなみに、人形が鎮座している座布団は、普段八剣が使用しているものである。
八剣が部屋にいない以上、人形をこんな姿にしているのは、当然仔猫以外にいる訳がない。
拳武館の人間も、あまりこの部屋には出入りしないし、仔猫を拾ってきてからは尚更だ。
仔猫が警戒して仕方がないので、刺激を与えない為に、余程火急の用事でもない限り此処に来る事はなかった。
そう、そんな訳だから、人形がぼろぼろになって行くのは、やはり仔猫が突いているからであって。
中の綿が食み出て、時には腕が――たまに首が――もげてしまったりもする訳で。
あまりに酷い有様になる度、壬生に修復して貰うのだが、それもかなりの頻度になっていて。
(取り替えようか)
寂しがり屋で意地っ張りで、甘えるのが下手な仔猫。
腹が減っても飯の催促は滅多にしないし、暇だから構えと正面から言って来る事もない。
だから若しかしたら、この人形も気に入らなくて、遠巻きにこんなメッセージを伝えようとしているのかも知れない。
実際、これで遊んでいるのを見た事がない。
八剣の目の前で突かないのは、同じ姿形をした本人の前では流石に惨いと思っての事だろうか。
もう修復を頼む必要はないだろうと、人形をゴミ箱に捨てた。
小さくなった自分がゴミ箱にいると言うのは中々見ていて気持ちの良いものではない。
だから直ぐに目を逸らした。
気に入らない玩具で遊ばせるのも良くないだろうから、仕方がない。
毎回壬生に修復を頼むのも悪いし。
捨てた人形の代わりに、黒い猫の人形を座布団に置く。
カチャリと音がして、奥の寝室から仔猫――――京一が顔を覗かせた。
「ただいま、京ちゃん」
「………」
返事はなかったが、耳がぴくっと動いた。
とことこ此方に歩いて来たが、京一は八剣に届く一歩手前で立ち止まった。
いい子にしてたねと頭を撫でると、いやいやするように頭を振ったが、本気で嫌がる様子ではなかった。
手を離すと、京一は撫でられていた場所をかしかし掻いた。
それから、京一の視線が座布団へと向けられて、
「なんだ、それ」
見慣れぬ猫の人形に、京一が眉根を寄せた。
「新しい子だよ。前のは、あんまり好きじゃなかったみたいだからね」
「………ふーん」
ぷいっと京一はそっぽを向いて、猫の人形をもう見なかった。
八剣の前ではよくやる仕種だったので、八剣も特に気にしなかった。
ただ尻尾が垂れ下がって、耳がぺったり寝てしまっていたのは、少し気になっていたけれど。
仕事を終えて部屋に戻る途中、壬生に呼び止められた。
「八剣」
「うん?」
普段無表情の感が強い同僚は、この時、ほんの少しであるが、楽しそうに見えた。
珍しいこともあるものだと、嬉しい事でもあったのかなァと考えていると。
「これを返しておく」
そう言って差し出されたのは、数日前、ゴミ箱に捨てた筈の人形。
あの日のぼろぼろの姿ではなく、綿もきちんと元通りになった姿で、其処に存在していた。
八剣は、これを壬生に渡した覚えがない。
ついでに言うなら、ゴミ箱に捨ててから見た覚えがなかった。
ゴミ箱に入れて、仔猫に新しい人形を見せた後、この人形の事はすっかり忘れていたと言って良い。
仔猫が新しい人形で遊ぶところは見ていないが、新しい人形の形は綺麗なままで、ああやっぱり前の人形は気に入らなかったのだなと思って、それきりだ。
ゴミ箱以降の人形の行き先など知らないが、それでも、捨てたものだとばかり思っていた。
それが何故、こうして今また手元に戻っているのか。
「……お前の飼い猫が持って来たよ」
受け取らない八剣の心情を推し量って、壬生が告げた。
京一は、人形を作ったのが壬生だと言う事も、直してくれるのも壬生であると言う事も知っている。
それでも、京一が人形を自分で壬生の下に持っていく事は今までなかった。
それを、八剣が捨てようとした今回に限って、八剣に黙って壬生に直して貰おうとするなんて。
「新しい人形はどうしたんだと聞いたら、こっちが良いと言っていた」
毎回ぼろぼろになるのは、八剣がいない間、ずっと持っているからで。
新しい人形が綺麗なままなのは、大事に使っているからじゃなくて、触っていないから。
でも素直じゃない子は、捨てちゃイヤだとも言えなくて。
………漏れた笑みは、ああ失敗だったかと言う意味もあって、嬉しい気持ちもあって。
そうだ、そうだ。
あの子は素直じゃないんだった。
素直じゃないけど、寂しがり屋の甘えん坊だ。
―――――危ない、危ない。
もう少しで、あの子の大事な宝物を取り上げてしまう所だった。
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人形遊び……とか可愛いもんじゃないと思いますよ、猫だから(笑)。獣人設定だけど猫だから。
頭とか腕とか口に咥えて、ブチィッ!! とかね。多分そんな。
うちの壬生は結構世話好きなんだろーか。
ってかゲーム壬生の[手芸部]設定をこんな所で発揮させてますね、自分。
どんな顔して八剣似の人形作ってるんだろう……