例えば過ぎる時間をただ一時でも止められたら。 忍者ブログ
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02 かまってほしいけど放っといて








ぺしぺし。
ぺしぺし。



足を叩くものがある。
それはかれこれ十分程続いていて。

なのに八剣がその正体へと目を向けると、途端、ぱたりと叩くのを止める。
そして再び自分のすべき事柄へ意識を向けると、またぺしぺしと叩き始める。

この繰り返しが延々続いているのである。




八剣の傍らには、座布団を抱えている仔猫―――――京一。

赤色の首輪につけられた鈴が、ちりんちりんと音を立てている。
先程ちらりと見た顔は、暇を持て余している状態で、且つそれを不服に思っているのがありありと現れていた。
頭の上の耳はぴくぴくと動いており、あちこち方向を変えつつも、基本的にそれも八剣の方向に向けられている。



猫とは気紛れな生き物だ。
この仔猫も同じである。

自分から触れるのは構わないが、相手から触られるのはお気に召さないらしい。
拾ってから二ヶ月以上が経った今も、仔猫は八剣に触られるのを良しとしない。
しかし、懐かれないなァと思っていたらそういう訳でもないようで、気侭に擦り寄ってきたり、布団の中に潜り込んできたり、実に気紛れな仔猫だ。


だが擦り寄ったりしてくる様子をじっと見つめていて、気づいた事が一つある。
この仔猫は、甘えてくるのが下手だと言う事だ。






ぺしぺし。
ぺしぺし。



また尻尾が八剣の足を叩いている。

何を言わんとしているのか、言いたいけど言えないのか、八剣は判っている。
判っているが、今は少々手が放せない状態にある。
だから、心を鬼にして―――大袈裟と言われようと、そんな心境なのである―――仔猫の要求から目を逸らす。


八剣のその態度は、当然のように京一のお気に召すものではなく、それ所か不機嫌を悪化させる。
足を叩く尻尾の勢いが強くなって来た。






「テレビ、見ていていいよ」






意地悪ではなく、気を紛らわせる為の好意の言葉だ。

が、仔猫はそうは受け取れなかったようで、ぺしん、と一度強く八剣の足を叩く。
続き様、ぼすっと八剣の後頭部にクッションがぶつけられた。


可愛いねェ。
そんな事を考えて、思わず笑みが漏れる八剣である。




手放す予定のなかった手元を空ける。






「京ちゃん」






振り返って呼びかけても、京一は返事をしなかった。
八剣に背中を向けて、テレビの電源を点けて、呼ばれたことも気付いていない風だ。

けれども、八剣が呼んだその一瞬、耳がピンッと直立して。






「疲れちゃった」
「あーそーかぃ」
「つれないね」
「けッ」






お前の都合なんか知ったことかと、京一は八剣を一瞥した。
さっきまで八剣の足を叩いていた尻尾は、もう同じ行動を繰り返そうとしなかった。

だけれど、真っ直ぐ伸びた尻尾の先は、ぴくぴく、ぴくぴく動いている。
瞬きがゆっくりになって、その奥の瞳は緩やかで。



小さな体をひょいと持ち上げてみると、珍しく京一は暴れなかった。
そのまま膝上に降ろしても逃げることなく、後ろから抱き込む腕も甘受した。

抱き締めたその体から、陽だまりの匂いがする。
耳がぴくぴく動いて、其処にキスをすると京一はそれも受け入れた。
大抵いやいやするように頭を振るのに、今日は随分機嫌がいい。



―――――いや、機嫌が良いのは少し違うか。








「癒してくれる?」
「……知らね。勝手にしてろよ」









素っ気無い台詞を言いながら、尻尾が甘えるように八剣の腕に擦りついた。













仕事なんて後回し。

だって、寂しがり屋の意地っ張りを宥める方が、何倍も大変なのだから。














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多分、この後仕事なんて完全にほったらかしにして、後日拳武館のメンバーに怒られるんだと。
でも反省しないんじゃないかな、この人は(うちの八剣はマイペースの極み(爆))。


「遊べ」とか「構え」とか、仕事邪魔してまで言えない京一。
仕事してなくても、多分面と向かっては言わないです。
八剣が暇してる時に、今だったら……って感じで擦り寄って行くんだと思います。

でも八剣の方から手を出されると、びっくりして引っ掻いちゃう。
扱い困る子!

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