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食事だよと、器に盛り付けて目の前に置かれた夕飯。
じっとそれを見つめながら、一向に食べる様子を見せない仔猫が一匹。
「いらないのかい? 京ちゃん」
食事を用意した男――――八剣が問うと、猫はぷいっとそっぽを向いた。
毛並みの綺麗なこの猫は、二ヶ月前に路地で蹲っているのを八剣が見つけて連れ帰った仔猫だ。
野良犬かカラスにでも襲われたのか、あちこち怪我をしていて、直ぐに医者に見せた。
幸い感染症などの心配はなく、治療も順調に進み、今ではすっかり回復した。
首には赤色の首輪と鈴がついていて、飼い猫であった事は判ったが、首輪につけられていただろう鑑札は、剥げてしまったのか、何処にも見当たらず、飼い主が誰かは判らなかった。
辛うじて首輪に消えかけた“京一”の文字が確認できたのが精々だった。
医者の見たところによると、八剣が見付けた時、仔猫はまだ生後二ヶ月頃で、捨て猫か迷い猫だろうと判断された。
最初に医者の下へ連れて行き、診断が終わった後。
医者が元の、若しくは新しい飼い主が見付かるまで預かろうかと言ったが、その時には八剣の情は既に仔猫に移っていた。
らしくないような気もしたが、それに気付いてしまえば、もう放っておく事は出来ない。
治療用のケージの中でじっと蹲り、辺りを警戒していた仔猫。
本来ならばまだ親元にいるであろう仔猫を、八剣は引き取ることにした。
―――――そして、今に至る。
「お腹空いてないのかな?」
問いかけてみるが、猫――――京一は返事をしない。
そっぽを向いたままで、此方をちらりとも見ない。
けれども尻尾はぴんと直立し、耳も此方を向いていて、八剣の様子を伺っているのが判る。
このまま八剣が此処にいると、京一は夕飯を食べない。
なんの維持を張っているのか知らないが、京一は毎日こんな調子だ。
八剣としては、二人一緒に食事が出来るようになりたいのだが、それが叶う日はまだ遠そうだ。
仕方なく、八剣は京一に背を向け、その場から離れる。
隣室への扉を開けて敷居を跨ぎ、扉が閉まる直前で止めて、向こう側の様子を見る。
京一は暫くじっとしていた。
が、くぅ、と腹が鳴る音がした後、夕飯に飛びつく。
そんなに腹が減っていたなら、我慢しないで食べれば良いのに。
毎回思う八剣だが、それを京一に言う事はしない。
育ち盛りに見合って、京一は食べるペースも速いし、仔猫にしては量も多い。
最初の頃は怪我の痛みもあってゆっくり食べていたが、それでも量は少なくなかったし、おかわりを催促したりもした。
今日もあっと言う間に皿は空になって行く。
その途中、
「……うめェ」
もごもごと粗食しながら京一が呟いた。
それは、ごくごく小さな声で。
皿が空っぽになると、京一は皿をテーブルに置いて、自分はもといた位置に戻る。
八剣がドアを開けても、京一は振り返らないし、耳も此方を向いていない。
完全に背中を向けた状態で、八剣など知らないとでも言うような様子だった。
だけれど、尻尾はぴんと立っていて。
「ああ、良かった。食べてくれたんだね」
八剣がそう言うと、おお、食べてやったぜ、と言うように京一が振り返り、
「いっつもマズイな、お前ェの飯」
その言葉に、そう、と呟けば、京一ははっきりと頷いてみせる。
でも、やっぱり尻尾はピンと直立したままだ。
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獣人モノです。猫耳京ちゃん。チビっこ希望。
八剣×京一と行きたい所ですが、小さいので今は“&”で(いつか手出すのか!?)。
美味しいご飯が食べられるから嬉しいし、本当は早く食べたいんだけど、ガッつくのを見られるのが恥ずかしい。
でも気持ちは早く食べたくて、尻尾と耳が正直(笑)。
尻尾が直立している時(毛が逆立っていなければ)は、好意的な時です。