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見つけた背中に、駆け寄った。
おはようと言って抱きつくと、京一は少し前のめりになって、それでも確り受け止めて振り返る。
「おめーなァ……」
「おはよう」
「……ああ」
呆れたように見てくる瞳を真っ直ぐ見返して、もう一度朝の挨拶をする。
すると京一は、言いたかっただろう言葉を飲み込んで、挨拶の返事をした。
赤信号に引っ掛かっていた京一は、其処から動かない。
勿論、行き先が同じ――――登校中である龍麻も、其処から動かなかった。
……京一の背中に抱きついたままで。
「離れろよ」
「いや」
「嫌じゃねーよ。いいから離れろ」
「いや」
ぴったりと密着している龍麻に、京一の眉間に皺が寄る。
この皺は直ぐに寄る。
半分は癖になっているのじゃないかと、龍麻は時々思う。
何かあれば直ぐに寄せられるのだ、此処の皺は。
今年の春に逢ったばかりなのに、どうしてだろうか。
龍麻は京一のその不機嫌な顔をすっかり見慣れたようになってしまった。
「暑苦しいだろ」
「平気だよ」
「オレが平気じゃねェんだよ」
うん。
本当は僕も平気じゃない。
龍麻はそう思ったが、口には出さなかった。
季節は夏。
空は所謂ピーカンと言う奴で、雲一つない空から降り注ぐ熱線は、地面に反射して更に空気中の熱を上げる。
ビルの乱立する都会の真ん中に吹き込む風は殆ど皆無に等しく、昼間ともなれば影もない。
コンビニに入ったら出たくない、そんな日々が続く今。
自分一人の熱だけでも持て余して、熱くて熱くて仕方がないのに、誰が好き好んで他者の熱に飛びつくものか。
人混みなんてもっての外、冷房の効いた電車に乗ったって満員だったら意味がない。
………熱線の所為で常温よりも熱くなった人肌なんて、極力遠慮願いたい。
でも。
「なんだってお前はオレに抱き付いて来やがんだよ」
「なんでかな」
「お前のことだろ! いや、ンなこたァどうでもいいから、とにかく離れろッ」
「いや」
「なんでだよ!? コラ、力入れんな、痛ェ!」
「京一、丈夫だから平気だよ」
離せ。
離れろ。
いや。
やだ。
信号待ちの横断歩道手前で、くっついてじゃれあう男子高校生が二人。
傍目に見てもむさ苦しい光景は、当人達にとってはもっとむさ苦しくて熱くて。
離れろ離れろと言う京一に、いやだと言いながら。
本当は僕も離れたいんだけどなァと、密着した箇所から熱くなる体温を感じて。
シャツの下は、もう汗でびっしょりだ。
こうなると判っていながら、何故こんな事をしているかなんて、
(だって体が動くんだ)
(京一、見つけたって思ったら)
それはどうしてかと言われたら、
大好きなんだから仕方がない。
………多分、それしか言えないんだ。
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好き好き全開の龍麻と、なんだかんだで赦してる京一。
本気で嫌なら、多分殴ってでも離させると思う。