例えば過ぎる時間をただ一時でも止められたら。 忍者ブログ
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vestiges carve















其処に、僕がいるという証を。


























【vestiges carve】


























唯一、行方知れずで生死すら危ぶまれていて。
微かに拾い上げる事の出来た点を線で結べば、出てくる答えは考えたくもない事ばかりだった。





大丈夫だと、理屈ではない何かが龍麻の心中に確信を持たせていたけれど、それも云わば単なる勘だ。
根拠のない言葉に雨紋は顔を顰めたし、如月もいぶかしんだ顔を見せていた。
逆の立場であれば自分も同じ顔をしただろうから、彼らの言葉は最もだったと思う。

寧ろ、どちらかと言えば、ああして言い切れた事の方が龍麻にとっても不思議だった。
だって自分は誰よりも先に、彼の身に何かあったのではないかと言う“点”を見付けたのだから。


龍麻が“壬生紅葉”と名乗る人物と闘った後。

転げるように龍麻の下にやって来たのが、吾妻橋を除く墨田の四天王の三人だった。
殆ど支離滅裂になって必死になって説明しようとする彼らの言葉の中で、まともに聞き取れたのが「アニキが」「吾妻橋が」「妙な奴が――――」の三つ。
京一に限って何か起こるとは思えなかったが、それでも何処か胸騒ぎがして、彼らが言うように真神学園に赴いた。


そうして―――――降りしきる雨の中で、唯一つ。
何処に行こうと手放さなかった筈の木刀の一端が、まるで墓標のように佇んでいるのを見つけた。



何度呼んでも、聞こえてこない返す声。
面倒臭そうに、仕方ねェなと言うように返ってくる笑顔がなくて。
………狼狽したのを覚えている。

けれどもそれ以上に、その後、冷静だった自分自身に驚いた。
京一がいない事を心配する面々の中で、一人、大丈夫だと言い切れた事も。




醍醐の事も、小蒔の事も心配だった。
見付からなかった時も、見付かった後も。


それなのに、何故だろうか。

見つけた点を線で結べば、嫌な答えしか出て来なかったのに、雨紋や如月もそうであったのに。
どうしてか“大丈夫”と言い切る自分がいて、其処に証はないのに確信を持っていた。







そして。
立ち込めた雲の切れ間、長かった夜が明けて。

光が差し込んだ瞬間を、龍麻はまだ覚えている。


































思う所は、色々あって。
それは恐らく、誰の胸の内にもそれぞれの形で点在していた。

失われた道に迷う者、新たな標に向かう者、変わらぬ日常に戻り行く者がいて―――――その中で、龍麻は日常に戻り行く者だった。


全てが終わった夕刻は、家路に着く気力もなく、それは他の真神メンバーも同様だった。
真面目な葵も今回ばかりは疲労もあって、気は進まないような仕種は見せるも、結局彼女も家にも帰らなかった。
また小蒔もそれは同じで――――恐らく、今はもう暫く一人になりたくなかったのだろう。
龍麻と京一は傷の手当、醍醐は《力》の覚醒の負担や様子見の為、真神の面々は織部神社で当日をやり過ごす事になった。

如月は自分の骨董品屋へ帰り、雨紋もふらりと街へ流れた。
今日はもうこれ以上、何某か起こることはないだろうと。




期せずしてお泊り会のような雰囲気になった事に、女子メンバーは何処か楽しそうだった。
お喋りに花を咲かせる葵、小蒔、織部姉妹に、気楽なモンだと京一は呟く。
最も、そう言う京一も漸く訪れた静寂に気が緩んで、盛大な欠伸などを漏らしていたが。

それでも一晩の内に様々な事が立て続けに起きて、疲れていたのは誤魔化せない事実。
最初に葵が、次に小蒔が畳の上で寝落ちた後、織部姉妹も今日一日はと龍山に断りを入れて、二人と一緒に眠りに落ちた。


畳の上じゃ流石に辛いだろうと、龍麻が布団を敷き始めると、醍醐も動いた。
最初に小蒔を、次に葵を布団に運ぶ。

京一はそれを見ていただけだったが、龍麻も醍醐もそれを咎めることはしなかった。
今の彼が実は立ち上がる動作をするだけで辛いと言う事を、二人は重々理解している。
本当なら、行きつけの彼の大嫌いな病院に行った方が良いだろうと言う事も。



京一の学ランの下。
借りた白いシャツのそのまた下に、幾重にも巻かれた包帯。


戦闘続きで解けかけたそれを、京一は直していない。
恐らく、そうする事も今は辛いのだ。
傷の痛みと疲労と、二重に圧し掛かる圧力が、京一の体力の回復を妨げている。

葵や雛乃が心配して治療しようとした手を、京一は平気だと言って断った。
小蒔や雪乃が怒鳴ってみても聞かないから、だったらせめて気になるから隠せと、シャツを押し付けられたのである。

断ったのは多分、京一自身のプライドと、其処に隠された傷を見せない為。
平然と動き回って木刀を振るっていたけれど、龍麻は彼の動きが何処かぎこちないのを見逃さなかった。
つまりそれ程、負わされた傷は深いもので―――――だからそれは人に見せたくないし、増して女子に見せるものでもないと。








「……意地っ張り」








ぽつりと漏らした声に、京一が顔を上げた。






「……なんでェ、いきなり」
「別に」






眉根を寄せた京一の顔を、龍麻は見なかった。



広い座敷の真ん中で、葵、小蒔、雛乃、雪乃の四人が寝ている。
その傍で甲斐甲斐しく、布団をかけなおしたり、暑くはないか寒くはないかと戸の開け閉めをしているのは醍醐だ。

其処から少し離れた同じ空間で、京一は開けた障子戸に寄りかかり、何をするでもなく外を見ている。
龍麻はその隣で、同じく何をするでもなく、茶を啜っていた。


京一は、時折、居心地悪そうに姿勢を変えたり、腹に手をやったりする。
触れた其処に傷があるのは誰が見ても判ることだ。
包帯が解けかけたままだと言う事も、京一が落ち着かない原因の一つだろう。






「包帯」
「あ?」
「貰って来る」






京一の返事を待たずに、龍麻は立ち上がった。
出入り口を塞ぐように座っている京一を跨いで、廊下に出る。

京一は何も言わず、見送ることもしなかった。




京一の包帯が、何処で誰に巻いて貰ったのか、龍麻は知らない。
けれども既に崩れかかったそれが、治療道具としての役割を破棄している事は明らかだ。
もう随分時間が経っているようだし、戦闘による汗で緩んでいるだろう。

だけれど女子が起きている横で、傷を晒すのは良しとしなかった。
手当ての為に一日此処に残る事にした筈なのに、平気だと言って彼女達の手を振り払って。



―――――もう寝ているんだから、気にしなくても良いのに。



思ったが、口にはしなかった。
京一のプライドに障るのは、女子からの心配の言葉だけではない。

一度とは言え敗北の二文字と共に負わされた傷。
簡単に人に曝け出せる訳がない。
自分の剣の腕に自信を持っていたからこそ、そのダメージは計り知れないのだ。





部屋を二つ三つと通り過ぎた先、広い座敷に龍山と道心――――それから、鳴滝冬吾を見つけた。
どうも難しい雰囲気で話をしているようで、どうやって声をかけたものかと暫く迷って、






「ん? ……おォ、お前ェか」






振り返ったのは、道心だ。
それに倣って、龍山と鳴滝も此方を見る。






「どうした?」
「えっと……包帯を、貰おうと思って」






京一が手当てを受けていない事は、恐らく、この人達も知っているだろう。
小蒔や雪乃の高い声は、此処まで聞こえていただろうから。


龍山が示したのは、開けた襖の向こう、隣の座敷の桐箪笥。
一つ頭を下げてから、龍麻は座敷に上がらせて貰った。

上から三段目だと言われたので、其処を開けると、年季の入った薬箱があった。
何が必要になるかは判らなかったし、あまり長居するのも良くない気がして、箱ごと借りる事にする。
ふとすれば底が抜けてしまいそうに古めかしい箱を、落とさないように気をつけて抱えた。



座敷を後にしようとした直前、声がかかる。






「龍麻」






それは鳴滝の声だった。

振り返ると、数ヶ月前まで毎日のように見ていた師の優しい面がある。
これが修行となると鬼のようになるのを思い出して、懐かしくなって笑みが漏れた。


ほんの数秒間の沈黙の間に、境内の向こうから虫の声が聞こえる。
陽が西に沈みつつある今、見える世界は緋色のフィルターがかかっているようだった。

その何処か寂しげな色の中で、師はゆっくりと口を開き、








「学校は、楽しいか?」








……その問いは、恐らく言葉の形だけのものではないだろう。


―――――今まで、龍麻がどんな学校生活を送っていたか。
師は全てとは言わずとも、知っている。

人の輪の中にいながら、何処か一人でいるような。
両手で有り余る程の人の中にいるのに、隣に誰もいないような。
………そんな日々を。



楽しいか、楽しくないか。
寂しいか、寂しくないか。

隣に誰かいるのか――――――









「――――――――はい」










頷く事に、迷いはない。



今年の春から、今日まで。
思い出してみれば、必ず浮かんでくる顔がある。
それは笑っていたり、怒っていたり、呆れていたりと様々で、龍麻はそのどれもが好きだった。

一番最初に何もかも曝け出してぶつかってきてくれた、あの瞬間から。


それから少しずつ輪が広がって、今となっては、昔の自分が驚く位だ。
《力》が呼び合うものだけだとは言い切れない、沢山の糸が沢山の人に繋がっている。





師の笑みを見つけて、龍麻は頭を下げてその場を後にした。





元来た廊下を真っ直ぐ戻れば、ほんの数秒で、出てきたばかりの部屋に辿り着く。
京一は龍麻が其処を出た時と同じ格好で、同じ場所に座っていた。

差し込む夕陽の茜色が、京一の顔を照らし出す。
京一は障子戸に寄りかかり、木刀を腕に引っ掛けて目を閉じていて、一見すると眠っているようにも見えた。






「包帯、貰ってきたから、手当てしよう」
「…………」






陽光を遮るように、翳を作って京一の傍に立つ。
しかし、京一からの反応はなかった。






「京一?」






呼びかけると、僅かに瞼が震える。
だが持ち上げられる事はなかった。

その場に座って、京一の頬に触れてみると、明らかに熱を持っている。


ちらりと葵達の方を見遣ると、寝返りも打たない程に深い眠りの中にいるようで、寝言の一つも聞こえてこない。
傍らで甲斐甲斐しく世話をしていた醍醐も、座った姿勢のままで舟を漕いでいた。

其処に龍麻の存在もなくて。

ほんの一分二分程度の時間で、張り詰めた糸が切れたのだろう。
常と変わらぬ所作を装う事も、やはり限界だったと言う事か。
精神よりもとっくに音を上げていた体の方が悲鳴を上げている。






「……意地っ張り」






そうなったら、プライドも何もないだろうに。
この隙に誰かに傷を見られてしまうのだから。

……今なら見つかってもきっと龍麻だろうからと――――そう思っているのなら、少しだけ嬉しかったけれど。


負けた事だとか、深手を負わされた事だとか。
龍麻も見られた事があるから、これでお相子だろう。




出来れば横にさせたかったが、そうすると恐らく起きるだろう。
この熱では、然程深い眠りには落ちれない。


そっと、汗の滲んだシャツをたくし上げる。
薬箱の中にあった小さな鋏を取り出して、すっかり緩んでいた包帯を断ち切った。

取り払った包帯の下にあったのは、深く長い、大きな――――――刀傷。






「……ッ………」
「……痛い?」






身動ぎする肩を捕まえて、圧迫しない程度に抑えて問う。
意識のない今、返事などある訳もないのだけど。



起きている時は、時折一瞬、顔を顰めていたりもした。
それでも覚悟の上の痛みなら耐えられるし、他の事でも考えて誤魔化す事も出来る。

だが眠っていようとも、夢を見れるほどの眠りでもない今。
あるのは痛みを訴える肉体と、無防備になった所為でそれを噛み殺す事の出来ない脳。
痛みを純然たる“痛み”として、体に危険信号を送っている。


京一の右手が彷徨った。
恐らく、探しているのは木刀だ。

立てかけているそれに辿り着く前に、龍麻はその腕を捕まえた。






「……ぅ……ッ…」
「……ごめん」






逃げるでも、耐えるでもなく、無意識に選んだ行動は恐らく“反撃”。
負わされた傷への反発。



―――――でも、此処にいるのは自分だから。




起こせば良いのだろうけれど、龍麻はそれをしなかった。
今なら、起こした所で自分を押し返す力もないだろうと、それも判っていたけれど。








「京一………」








傷の隣に触れてみる。
一瞬、京一の肩が跳ねた。



恐らく、この傷は残るだろう。
裂けた皮膚は繋がる日が来るだろうが、今度は繋がった痕が残る。
京一の大嫌いな病院に引き摺っていっても、これは多分変わらない。

寧ろこれだけの傷を負って、痕が残るだけで済むのが可笑しいのかも知れない。
……同じような傷を、自分も負った事があるから、龍麻には判る。


癒えない傷、消えない傷。
きっと一生残る傷―――――――………







「………―――――ッ」







そっと顔を近付けて、傷の形を舌でなぞる。
直接触れた所為だろう、痛みに無意識に耐えるように京一の右手が拳を握った。















学校は、楽しい。
クラスメイトがいて、遠野が来て、葵が小蒔が醍醐がいて、――――――京一がいる。


桜が舞うあの日から、今日という日まで、ずっと。
例えば其処に何某かの運命が―――《宿星》が―――動いていたとしても、今はそれに感謝したい程で。

だって、皆と、彼と出会うことが出来たから。



一番最初に、何もかもを強引に引きずり出して、曝け出して、ぶつかってきてくれた。
その瞬間の喜びを、忘れられる訳もない。
それからもずっと隣にいてくれる事が、とてもとても嬉しくて。

だから学校は楽しいし、その後の時間も楽しくて、離れている時間も決して寂しくはなくて。
明日会えるのが楽しみだから、誰かが笑いかけてくれるのが楽しみだから。





でも、もしも。
あの雨の中で感じた、一瞬のざわめきが、もしも今も続いていたら。

あの時、光が差していなかったら――――――






師の問いに、なんと答えていただろう。





















微妙なバランスを取っていた木刀が倒れて。
カタリと音を立てて、それが覚醒に繋がったのだろう。

ふるりと震えた瞼が、ゆっくりと持ち上がる。
覗いた瞳は何処か茫洋としていて、傷の深さと熱の高さを物語る。
意地っ張り、と龍麻は今度は胸中で呟いた。






「………っあ……?」






ぼんやりとした瞳で、京一は自分の腹の位置にある龍麻の頭を見下ろした。

右手が動かないのも、抱えていた筈の木刀がないのも、今は判らないのだろう。
混濁しかかった頭は現状に中々追いつかないようで、じっと龍麻を見つめる。






「……たつま……?」
「うん」
「……ぁ…に、して……」






何してんだ?
なんだろう。

言葉よりも瞳で問いかけられて、龍麻はそんな返答をした。
ふざけんなと、左の拳が落ちてくる様子もない。


また傷の上に舌を這わす。
ビクッと京一の躯が跳ねて、捕まえたままの右手に力が篭る。

逃げを打つように身を捩った京一だったが、還って傷に響いたのか、歯を食いしばって仰け反った。






「じっとしてて」
「……っは……ぁ…?」






零れた京一の吐息に熱が篭っていて、龍麻は奇妙な既視感のようなものを感じていた。






「う……ッ……」






消毒にしては乱暴で。
愛撫にしては丹念過ぎて。

繰り返し繰り返し、傷を舐めて、その都度京一の喉から熱い呼吸が漏れる。






「龍……」
「あんまり声出すと……」
「………?」
「――――あっち、」






起きちゃうよ。

声に出さなかったその言葉も、そちらに目を遣ったことで、京一も察したようで。
それまで無抵抗だった左手が、不自由な右手に代わって龍麻の頭を掴む。






「はな、せ、……っの……ッ」
「嫌」
「…っあ………ッ」






離そうとして後頭部に置かれた、手。
傷によって齎された熱は、そんな所にも影響が出ているようで、それは掴むと言うより添えられているだけに近い。
予想した通り、今の京一に龍麻を押し退ける力はない。


微妙な痛みは、快感と似ている。
熱に浮かれた体は確りとそれを錯覚したようだった。

ピリピリとした小さな痛みを与え続けられて、京一の瞳からは理性の光が失われつつある。
此処でそんな事をしてしまってはとんでもない事になると、それは判っているようだったが、元より傷の所為で弱った体だ。
比例して疲労した脳は、正常な機能を手放しかけていた。






「……っは……痛ッ…ぅ…」
「痛い?」






先刻もした問いを、もう一度してみる。
今度は意識があるから、当たり前だと小さな声が降って来た。






「残るね」
「……あ……何、が…」
「これ。残るよね、きっと」






ゆったりと、下から上に。
傷の形をなぞって舐める。

熱の篭った吐息が、押し殺しきれずに隙間から零れていた。



生きているだけ良かったとか。
それは、あるかも知れないけれど。

それでもやっぱり悔しい気がして、龍麻は傷の横に歯を立てる。







「バッ………!」







傷の痛みもあるだろうに、それ以上に身の危険を感じたか。
不自由な右腕以外をフルに使って、京一は龍麻を押し退けようと躍起になって暴れた。

弱った抵抗など龍麻にとっては大した効果はなかったけれど、龍麻は拘束も解いて京一の傷から顔を離す。






「しないよ」
「………」
「皆いるし。あっちに、先生達もいるし」
「……なら…ハナからすんなよ…こんな事……」






疑う目をする京一に、しないという根拠について告げれば、苦虫を噛み潰したような顔。






「だって、悔しかったんだ」
「……あァ……?」






言葉の意味を目で問う京一の頬に口付ける。
京一の瞳はぼんやりとしてはいたが、幾らか落ち着きを取り戻そうとしていた。






「僕も残していい?」
「…何を……」
「なんでもいい。……消えないもの、残していい?」






指先で京一の腹の傷をなぞる。
右手でそれを払われた。




夕暮れに照らされた堀の深い顔、随分と陰影がくっきりと浮かび上がる。
きれいな顔をしていると、思った。

そのきれいな顔を見つめているだけでいるのが勿体なくて、また頬に口付ける。
犬が甘えるように擦り寄ってみたり、舐めてみたりして。
耳朶を軽く甘噛みすると、すんなっつってんだろ、とお叱りの声がかかった。



何処に何を残すのか。
言っておいて難だとは思うが、正直、考えてはいなかった。
ただ、この傷が残るのだと思うと悔しかったから。


だって自分の中には、剥がそうとしたって出来ないくらい、沢山の痕が残っているのに。
なのに彼の中に自分がいないのは、自分の残した痕がないのは、嫌だ。

その上、他の誰かの消えない傷痕が残るなんて、悔しくて堪らない。








残したい。

なんでもいい。
消えない痕を残したい。













「………此処じゃ、御免だ…………」















うん。
判ってる。

今じゃなくていい、此処じゃなくていい。
だけど、後で。




















この傷みたいに、刻み付けて。

何よりも消えない、証を。






























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拳武編最終話の隙間の話です。
戦いが終わって、鳴滝達の話が終わった後、翌日学校に行くまでの隙間です。
最終話の時間軸が自分で少々判り難かったのですが、“闘い終わり→鳴滝達の話→学校→学校が終わって各自→龍麻とマリィ→龍麻と壬生の勝負”かなと思いまして。だから闘い終わって学校に行くまでの時間を、織部神社で過ごしてたって事にしてみました。

八剣に妬いて、周囲なんてお構いなしの龍麻が書きたかったんです。
負傷で弱ってる京ちゃんとか、コトはやってないけどエロい雰囲気とか。
…なんか黒いね、この龍麻も。


……この後?
はい。ガッツリ裏の予定でした。ってか続き(エロ部分)書きたい。


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