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傷付けたい訳じゃなく。
出来るなら、真綿に包むように大事に大事にしてあげたい。
でも、あの子はそれを受け入れられる程に、温もりに慣れていないから。
声を上げずに泣いたりするから、抱き締める事も出来なくなる。
みっともない程、まるで赤子が親を求めるように泣くなら、大丈夫だよと囁いてあげる事も出来るかも知れないのに。
血の気を失うほどに強く強く掌を握り締めて、歯を食い縛る。
声を、悲鳴を、押し殺して、弱い自分を隠して押し込めて見ない振りをして。
気付かれたくないと望む彼のプライドを傷付けたくないから、自分も知らない振りをする。
そうして熱と痛みの所為にして漸く泣ける子供を、別の意味で傷付ける。
彼のプライドを踏み躙るような行為を繰り返しながら、傷付けたくないと願う。
矛盾しているそれはどちらも、彼の心中を尊重してのもの――――とは言い切っては、自分はただの偽善者だ。
彼の望むとおりに自分を演じて、自己満足に浸っている事になる。
違う。
そうじゃない。
けれど、こうする以外に今は判らない。
触れる度、まるで彼は吐き気を催しているようだった。
実際に吐いた事はなかったが、苦しげに喘ぐ様子は、艶よりも眉間の皺がよく目に付く。
でも、彼はそれも押し殺してしまう。
熱に浮かされて意識が飛びかける頃になって、彼は漸く、息をする。
生命が生きていく為に必要不可欠な呼吸を、その時になってやっと取り戻す。
悲鳴のような嬌声を上げて。
「あ、う……っは、……うぁ」
揺さぶられるままに声を上げて、瞳は宙を彷徨っている。
熱よりも、まるで痛みに酔っているように見えた。
快楽に笑むのではなく、痛みに安堵しているように。
「気持ち良い?」
「……あ、あ……ん、っは…」
問い掛けた言葉に、返事はない。
気持ち良いとも、常のように気持ち悪いとも言わず。
行為の前に、酒を飲んだ。
京一はアルコールに弱いとは言わないが、強くもない。
そのアルコールが、京一のストッパーの一つを外していた。
明日になれば何も覚えていないだろう。
酒に流されて行為に及んだ事以外は、恐らく、何も。
「…っふぁッ……や、熱……」
何か企みがあった訳ではない。
ただ、いつも苦しげに息をするから、ほんの少し助けになるものがあればと思った。
眉間の皺が少しぐらいは消えればいいと。
……ああ、やっぱりただの自己満足かも知れない。
だってそうしたのは、自分が彼のあの顔を見たくないからで。
この少年が真に何を望んでいるかなんて、結局、自分には判らない。
抱き寄せて、唇を己のそれで塞ぐ。
行為の最中に交わしたのは、これが初めてだった。
いつもは彼が寝入りかけた時にだけ、一方的に。
嫌がられるのも、無理に我慢して受け止められるのも、どちらも嫌で。
だから自分の気持ちも、京一の赦しも、誤魔化すように夢の縁に漂う彼に口付けた。
今なら同じだ。
明日になれば、京一はきっと覚えていない。
された事も、拒絶しなかった事も、苦しげな顔をしないままで受け入れたことも――――きっと覚えていない。
滑り込ませた舌に、たどたどしく絡みついて来るものがあった。
一瞬驚いて離れようとすると、いつの間にか肩を掴んでいた手がそれを阻む。
「ん……ん、ぅ……ふぁッ……」
どうしたの。
いつもはこんな事しないのに。
問い掛けても、返事はないだろう。
熱だけを追う京一に、八剣の声は届かない。
……現実に返してしまうのは虚しくて、届かなくて良いと思う。
思ったよりも長い時間口付けている事にようやく気付いて、解放する。
そして、見つけた雫に目を瞠る。
「………や、……る…、…ぎ…………」
それは、単なるアルコールの所為?
それとも、苦しかった所為?
………置いて行かれた子供のような泣き顔と、縋るように肩に立てられた爪と。
その理由を知る事が出来たら、君はもう、傷付かないようになれるのだろうか。
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この京ちゃんをどーやって泣かせようと思った結果、酒の力に頼りました。
さぁ八剣、此処からがお前の男の見せ所だぜ!(←雰囲気台無し)