例えば過ぎる時間をただ一時でも止められたら。 忍者ブログ
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06 僕のものではないという事実












例え何度穢しても。
例え何度、傷付けても。

例えどれ程、その身に消えぬ痕を残しても。



君は僕のものじゃない。











脇腹に残した行為の痕跡を、忌々しげに睨んでいる横顔を見つめる。
無遠慮なほどに見つめているから、きっと彼は視線に気付いているのだろうけれども、何も言わなかった。
恐らく、此方の顔など見たくもないと思っているのだろう。


しばらくそのまま停止していた京一だったが、動き出すと服を着る手を再開させた。
冬に着るには薄手の赤いシャツを着て、たったそれだけで肌の軌跡は隠される。

どうせなら、見える所に痕をつけたい――――消えない痕を。
無防備に晒されている鎖骨だとか、向き出しの腕だとか、髪の隙間から見える項だとか。
けれども、そうするとかなりの不興を買うから、滅多にした事はない。






「明日は体育があるってのに……」






着替える時に面倒臭い。
学生らしい呟きを漏らして、京一は赤シャツの上に学ランを羽織る。

最初に逢った時のワイシャツはどうしたのかと聞いたら、なんでもあの一着しか持っていなかったらしい。
余分に買えるような金銭は持ち合わせていない、と言う京一に、八剣はただ一回だけ、悪かったねと言った。
上辺だけの言葉と取られたか、京一は顔を顰めたが、別に、と言った。



木刀と学校指定の鞄を持って、京一は部屋の戸口へと向かった。


外は暗い。
時計を見れば、草木も眠る丑三つ時。
最も、彼が帰る場所としている所は、あの不夜城なのだけれど。

彼の腕は自分が何よりもよく知っているから、心配する事はない。
自分に勝った男なのだから、其処ら辺をうろついて屯しているだけの輩に、何かされるとも思えない。


それでも、この言葉を告げる事は、何も可笑しなものではないだろう。







「もう遅いし、泊まって行ったら?」







冬の真っ只中である。
今外界に出れば、当然冷気が肌を突き刺す。

だから、物騒事に置いて心配の要らぬ相手でも、可笑しな台詞ではない筈だ。



今までにも、こうして何度か引き止めた事がある。


暗いし、と言ったら、慣れてる、と言われた。
危ないんじゃない、と言ったら、今更何が、と逆に問い返された。
寒いよ、と言ったら、これもまた慣れてる、といわれた。

雨が降っていても、雪が降っていても、これは同じだった。




そして今回もまた。








しばらく八剣の顔を見た後、京一は何も言わずに踵を返した。


















閉じた扉を見つめて思う。






あと何回抱き締めて、
あと何回口付けて、

あとどれ位穢して。


あとどれ位、傷付けたら、




君はこの手を取ってくれるだろう。



















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八剣は京一が本当に好きなんだけど、京一がいまいちそれに気付いてないと言うか、信じてない感じ。
正面から言えば信じない、遠回りにすれば気付かない。

……この八京どうしよう(滝汗)。

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