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惰性と言えば惰性なのだろう。
こんな関係をズルズル続けている事は。
受け入れたと言うには余りに殺伐としていて、拒否したと言うには近過ぎる。
どうしてこうなったのかすら、もう考えるのも面倒になった。
間違いないのは、切っ掛けと筋道を作ったのは目の前の男で、それを判っていながら逸れなかったのは自分だと言う事だ。
何も生み出さない、ただ熱を煽り吐き出すだけの行為を、何度繰り返しただろうか。
麻薬染みた常習性はないように思うのだが、それも自分の感覚が麻痺しているからとも言える。
不定期に摂取する苦味と熱は、恐らく、酷くゆっくりとした速度で体内に蓄積されている。
相手の顔と、湧き上がる熱と。
どちらを先に思い出すのかと言ったら、熱の方だった。
顔は後付のようなものだ。
思い浮かべてから、もっと他の顔があるだろうと思う。
流行の巨乳アイドルだとか、いつだったか見たAVの内容だとか、その類。
なのに浮かんでくるのは決まってあの顔。
それを消す為に熱を吐き出したくて、同じ相手に会いに行く――――――矛盾、していた。
開放感の余韻に浸る京一の頬に、冷たい手が触れる。
髪の毛先を弄ぶように揺れる指に、京一は顔を顰め、力ない手でそれを払い除けた。
つれないね、と呟くのが聞こえ、それに何か返すような気力も沸かず、京一は目を閉じた。
どうしてこうなったのだろう。
どうしてこの男なのだろう。
思いながら、考えるのが面倒臭いと言う思考も浮かんで来て、じゃあどうすりゃいいんだと自問してみる。
考え続けなければ惰性のまま、この風景が日常と化してしまいそうで、それは京一のプライドが許さなかった。
しかし考え続けている間に深みに嵌ると言うか、抜け出せない所までズブズブと足を進めてきたのも自覚がある。
でも今は脳が働きを拒否しているのも確かで、だったら今は眠いだけなんだと、それで思考をシャットダウンする事にした。
うつらうつら、酸素不足が睡魔を手繰り寄せるのに時間はかからなかった。
不思議なものだ、妙なものだ、可笑しな事だ、毎回思う。
此処は眠ってしまえるほど、安全な場所ではないだろうに。
――――――ほら、呼吸を塞がれた。
「ん…、ぅ………」
舌の侵入を拒まないのは、疲れているからだ。
意識の半分を睡魔に持って行かれたから。
「ん、ん………ふっ……」
それでも、このまま眠ってしまえば窒息しかねない事を、本能は正確に理解していた。
鼻のかかった呼吸が漏れて、僅かに唇が離れる。
一つ息を吸い込んだら、また直ぐに塞がれた。
また舌が侵入して、京一の舌と絡み合って、無理矢理外へと引き摺り出される。
好き勝手される事に良い感情は沸かなかったが、やはり抵抗が面倒だった。
普段、八剣はキスをしない。
躯に証は残す癖に、唇にだけは落としてこない。
唯一の例外が、こうして京一が意識を手放そうとしている間際の事。
夢現の境目で意識をぐらつかせている時だけ、八剣はこうしてキスをする。
程無く京一が眠ってしまうであろう瞬間にだけ。
変な奴。
そうは思うけれど、少しだけ、気が楽だった。
この時ならば、目を閉じていられるし、
「気持ち良い?」
ふざけた台詞の時にも、相手の顔を見ないで済むし。
どんな顔でどんな眼でどんな風に、自分を見ているのか、見ないで済むし。
「…………きもちわりィ…………」
否定の言葉を呟いて、直ぐに意識を手放したって赦される。
嘘吐きだねェと聞こえた声は、きっと夢だ。
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一番信実に近い答えを否定する。
なんか京ちゃん弱っちゃった……
ぐるぐる考え過ぎて疲れたようです。