例えば過ぎる時間をただ一時でも止められたら。 忍者ブログ
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03 赤い噛み痕を隠して睨む









バンッと勢い良く開かれた扉。
そちらを見遣れば、ギリギリと此方を睨み付けて来る強気の双眸。








「テメェ……痕つけんなっつっただろうが」







頚部を掌で隠して、今にも噛み付きそうな剣呑とした眼差し。
それを何処吹く風と受け流し、八剣はクスリと笑みを浮かべた。







「いいじゃない。直に消えるよ」
「消える消えないの問題じゃねェ。つけんなっつってんだ」
「どうせ判らなくなるんだ。少しの間くらいいいだろう?」







ズカズカと近付いて、京一の足が浮く。
スッと動いて、振り切られた蹴りを座したままで避けた。

手刀で軸足となっている左足を払う。
支えを崩されてバランスを失った肢体が倒れ込み、八剣はそれを難なく受け止めた。
衝撃を和らげる為に彷徨った手は、八剣の肩に添えられる形に収まった。


京一の頭が、八剣の肩口に落とされる。
じんとした鈍い痛みがあったが、八剣は気に留めなかった。



すぐ目の前にあった京一の首筋に唇を寄せる。









「んっ……!」








首筋の痕など、真神の詰襟の制服を着てしまえば見えなくなる。
けれども京一はいつもボタンを外してラフにしており、首を隠している事は滅多にない。
それを知っている者達から見れば、隠せば逆に目立つだろう。


舌を這わせた其処に歯を立てる。
びくっと、まだ少年の域を抜け切らない躯が怯えて跳ねた。

逃げないように頭部を抑えると、じたばたと手や足が暴れる。
構わずに立てた歯に力を入れると、犬歯が皮膚を破り、京一の躯が硬直する。
喉を食い破られれば致命傷になる、動物の本能的な恐怖だった。







「う…ぅ、あ……ッ」







歯牙によって出来た小さな穴から、紅が滲む。
それを動物が癒すかのように舐める。

微かな痛みは、快感に似ている。
熱の篭った呼吸が肩口に当たって、八剣は緩く笑んだ。


笑ったのが判ったのだろう。
敢えて拘束しなかった京一の手が、八剣の肩を押した。







「調子に、乗んなッ!」







食まれた首筋を隠して、京一は八剣を睨む。

今しがたつけられた痕を隠す代わりに、先ほどまで隠されていた痕が顔を覗かせた。
きっと京一の頭の中から、その古い痕の事は綺麗サッパリ忘れられている事だろう。












隠し切れない痕が、あと幾つあるのか。

いつになったら気付くかなと、八剣は薄く笑みを透いた。













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なんだかんだで流されかける京一。
ゆっくり染めていく。

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