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バンッと勢い良く開かれた扉。
そちらを見遣れば、ギリギリと此方を睨み付けて来る強気の双眸。
「テメェ……痕つけんなっつっただろうが」
頚部を掌で隠して、今にも噛み付きそうな剣呑とした眼差し。
それを何処吹く風と受け流し、八剣はクスリと笑みを浮かべた。
「いいじゃない。直に消えるよ」
「消える消えないの問題じゃねェ。つけんなっつってんだ」
「どうせ判らなくなるんだ。少しの間くらいいいだろう?」
ズカズカと近付いて、京一の足が浮く。
スッと動いて、振り切られた蹴りを座したままで避けた。
手刀で軸足となっている左足を払う。
支えを崩されてバランスを失った肢体が倒れ込み、八剣はそれを難なく受け止めた。
衝撃を和らげる為に彷徨った手は、八剣の肩に添えられる形に収まった。
京一の頭が、八剣の肩口に落とされる。
じんとした鈍い痛みがあったが、八剣は気に留めなかった。
すぐ目の前にあった京一の首筋に唇を寄せる。
「んっ……!」
首筋の痕など、真神の詰襟の制服を着てしまえば見えなくなる。
けれども京一はいつもボタンを外してラフにしており、首を隠している事は滅多にない。
それを知っている者達から見れば、隠せば逆に目立つだろう。
舌を這わせた其処に歯を立てる。
びくっと、まだ少年の域を抜け切らない躯が怯えて跳ねた。
逃げないように頭部を抑えると、じたばたと手や足が暴れる。
構わずに立てた歯に力を入れると、犬歯が皮膚を破り、京一の躯が硬直する。
喉を食い破られれば致命傷になる、動物の本能的な恐怖だった。
「う…ぅ、あ……ッ」
歯牙によって出来た小さな穴から、紅が滲む。
それを動物が癒すかのように舐める。
微かな痛みは、快感に似ている。
熱の篭った呼吸が肩口に当たって、八剣は緩く笑んだ。
笑ったのが判ったのだろう。
敢えて拘束しなかった京一の手が、八剣の肩を押した。
「調子に、乗んなッ!」
食まれた首筋を隠して、京一は八剣を睨む。
今しがたつけられた痕を隠す代わりに、先ほどまで隠されていた痕が顔を覗かせた。
きっと京一の頭の中から、その古い痕の事は綺麗サッパリ忘れられている事だろう。
隠し切れない痕が、あと幾つあるのか。
いつになったら気付くかなと、八剣は薄く笑みを透いた。
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なんだかんだで流されかける京一。
ゆっくり染めていく。