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情事の後、必ずシャワーを浴びる京一は、恐らく、その躯に残り香を欠片も残したくないのだろう。
触れた事さえなかったかのように、全てを綺麗に削ぎ落としてしまう。
それを少しだけ、残念に思う。
扉を開ける音がして振り返れば、肩にタオルを引っ掛け、髪から雫を垂らす京一の姿。
トランクス一枚(意外と可愛い柄だ)だけを身につけて、真っ直ぐに背中を伸ばしている。
惰性を思わせる言動が目立つ為、普段は背中を丸めているのが目に付くが、やはり剣術家である。
正された姿勢は普段の生活にも片鱗を残すもので、特に八剣の前にいる時、京一はいつも背を伸ばしていた。
―――――それはつまり、京一が八剣に対して気を赦していない証拠でもある。
床に雫が落ちるのも構わず、京一はクッションの上にどっかりと腰を落とした。
勝手知ったるとばかりの横柄な態度を、八剣は咎める事はない。
気を赦していない割に、警戒している訳でもない。
まるで懐く一歩手前の猫のようだと思う。
自分から近付くが、此方が近付けば逃げる、けれども姿を消すことはなく、じっと此方の様子を窺って。
「京ちゃん」
呼ぶと、頭を拭く手がぴたりと止まった。
近付く為には、一度声をかけてから行動を起こさなければならない。
無断で近付けばあっと言う間に逃げてしまうし、運良く触れたとしても引っ掻かれてしまう。
京一の手からタオルを取り上げる。
雫の落ちる髪を、八剣は慣れた手付きで拭き始めた。
「言っただろう? そんな拭き方したら痛むって」
「………女じゃあるめェし、知ったことか」
「勿体無いよ」
こうして触れる事を赦されるようになったのは、いつからだろう。
関係を持つよりも先だったか、それとも後だったのか。
不思議な猫、気紛れな猫だ。
触れる事を赦されているからと言っても、機嫌が悪ければすぐに引っ掻いて来る。
よくよく見極めなければならない。
微細で気紛れな逆鱗に触れない為に、慎重に――けれどもそれを気取らせないように――髪を拭く。
程無く、八剣お気に入りの京一の髪は、余分な水気から解放された。
「折角、綺麗なんだからさ」
「……うぜェ。もう触んな」
髪を拭き終えたのだから気は済んだだろう、と。
最初の邂逅で触れた時に比べれば、幾らかしなやかになった毛先。
それにに指を滑り込ませて遊んでいると、京一は振り返らずにその手を打ち払った。
「つれないね」
――――つれない癖に、情交は赦すのだ。
全く、基準の判らない気紛れな猫である。
その気紛れな瞳が、己の手によって艶に染められた瞬間が、八剣は気に入っていた。
背中を向けたまま、京一はタオルを奪い取り、火照った躯の汗を拭く。
その薄らと紅を帯びた肌の色は、情事に見せる昂りとよく似ていた。
「京ちゃん」
呼んでも返事はない。
期待していなかったから構わない。
首を隠す後ろ髪を掻き揚げると、京一は何も言わなかった。
つくづく基準の判らない気紛れな猫だ。
掻き揚げた手の平をゆっくりと動かし、濡れた項に当てた。
八剣の手に冷たさを感じたのだろう、一瞬京一の肩がぴくりと跳ねた。
「てめェ、調子に――――ッ」
乗るな、という言葉は続かなかった。
濡れた項に、八剣の舌が這う。
ぬるりとした感触は情事を思い出させるかのように、官能のスイッチを掠める。
振り返ろうとする肩を押さえ、裏拳を打とうとする右の手首を掴む。
「…っう………ん……!」
誘われるかのように、八剣は繰り返し繰り返し、京一の項に唇を落とす。
じんわりと濡れた肌は、触り心地が良く、このままずっと触れていたいと思う。
「っは……てめ…ん……ッ」
「熱いね」
「…あ……!」
火照っているのは当たり前だ、つい先ほどシャワーを浴びたばかりなのだから。
けれどもその火照りは、情事の熱にもよく似ている。
京一の若く健康的な躯は、否応なく快感に素直になっていく。
手に持っていたタオルがするりと床に落ちて、空の手が拳を握る。
この少年が縋ってくる事はない、プライドの高い猫だから。
それがいつかは、縋ってくる事を期待して。
濡れた項に、束の間の所有の証を刻む。
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合意だけど、ラブでもなく。
こういう八京が書いてて楽しいかも知れない。
微エロ言う程エロくはないですが、京ちゃんが喘いでるので一応…
……うちの八剣は大体、紳士4:鬼畜6の割合(当社比。)。