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校庭に犬が迷い込んできた。
それだけで、体育の授業はしっちゃかめっちゃかになった。
赤い首輪をした犬は、仔犬ではなかったが、成犬と言うには少々落ち着きがなかった。
グラウンドでバスケットボールに興じていた男子集団に突入すると、体操服を引っ張るわ、集団の隙間を走り抜けるわ。
これでもかと言う程に尻尾を振って、楽しそうに走り回った。
踏みつけたり蹴飛ばしたりしては可哀想で、もう試合どころじゃない。
コート用に引いた線もすっかり消えて、男子生徒は犬に追い掛け回されて大変な目にあっていた。
体育館で授業をしていた女子が、校庭の喧騒に気付いて外に出てきた時には、もう燦々たる有様。
犬は噛み付く事はなかったが、一度ターゲットを絞ると、ロックオンされた相手は大変だった。
追い駆ける、飛びつく、じゃれ付く……体操服のズボンを引っ張られて、パンツ丸出しになった奴もいる。
犬が苦手な生徒等は近付けたものじゃないが、犬の方はそんな事はお構いなしだ。
目が合って、気になった人物にはとにかく突進し、気が済むまでじゃれついている。
追い掛け回された者は漏れなく転び、飛びつかれじゃれつかれた者は漏れなく服を引っ張られ。
体育教師は静かにしろと怒鳴ったが、出来る訳もなければ、生徒達はまるで聞こえちゃいなかった。
現在、犬がターゲットにしたのは、目立つアフロ頭の男子生徒。
目線は真っ直ぐアフロ頭に向けて、犬は一目散にそれを目指した。
―――――その様子を、龍麻と京一、醍醐の三人は、体育館の軒下に避難して眺めていた。
「可愛いねー、ワンちゃん」
笑ってそう言ったのは、小蒔だった。
聞き留めた京一の眉がピクリと上がる。
「あのな。こっちゃ散々だったんだよ」
「京一、凄く追い駆けられてたよね」
アフロ頭の男子生徒は、必死になって走っている。
ついさっきまで、京一がそのポジションだった。
走れば追い駆けてくるのは判っているが、追い駆けられれば逃げてしまうのが性と言うもの。
立ち止まっても、服を引っ張られたり、ズボンを擦り下ろされたりされてしまうから、止まる訳には行かない。
犬が興奮している所為もあって、正面から突進を受け止めて宥める、と言う選択は非常に困難であった。
女子は体育館の軒下で眺めているだけなので、追い掛け回される男子の苦労は判らない。
寧ろ可愛い犬だからいいじゃない、と言い出す者がいる程だ。
でも、授業は潰れたのでラッキーだ。
こっそり思う京一である。
「何処の飼い犬なのかしら……」
「さぁな」
「捕まえれば、判るんじゃないか?」
「そっか。名札とかあるかも」
「……じゃ醍醐、行け」
「なんで俺が!」
「お前が言い出したんだろ。オレはもう御免だ」
ぎゃああ、と言う悲鳴が校庭の真ん中で響く。
見れば、ついに追いつかれたアフロ頭が、犬にズボンを銜えられてぐいぐいと引っ張られていた。
はっきり言って、あの目には遭いたくない。
既に何人かズボンを引き摺り下ろされ、情けない姿を観衆の皆様方に疲労する羽目になったのだ。
増して醍醐は、好きな人が此処にいるという事もあって――――あれだけは絶対に嫌だった。
その時。
アフロ頭の生徒のズボンを奪取して、満足げに尻尾を振っていた犬が此方を見た。
「あ、こっちに来た」
ぽつりと呟いた龍麻の声は、隣に立つ京一に辛うじて聞こえた程度。
何が、と京一が問うよりも早く。
集団に突っ込んできた犬は、やっぱり嬉しそうだった。
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わんこが学校に入ってくると、何故か授業どころじゃなくなる。
昔、全校集会の真っ最中に体育館のステージの幔幕裏から犬がひょっこり出てきた時は驚いた。
構造上、先生達のいる場所を通らないと上がれない筈なのに、誰も騒いでなかったから…
何処からどうやって入って其処に行き着くんだ。
アフロ田ホントに好きな、自分(可哀想な事になってるけど)。