例えば過ぎる時間をただ一時でも止められたら。 忍者ブログ
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02 手紙を回す









手紙が回されてきた。
数人のクラスメイトを伝いに、相棒から。

面倒くさいことをするもんだと思いつつ、京一はそれに付き合った。







発端は、クラスの女子が授業中に手紙を回し合っていたのを龍麻が見つけた事から。


最近の女子高生ならよく見る風景であったから、京一は気にした事がなかったが、不思議に龍麻の琴線には触れたらしい。
やってみたいと言い出す龍麻に思わず顔が崩れ、何阿呆な事を、と言い掛けて、止めた。
言った本人は、至って真面目そうな顔をしていたからだ。

適当にクラスメイトに頼めば、メンバーに加えてくれるんじゃないかと言ったら、それは嫌だと言い出した。
相手がいなきゃ手紙の遣り取りなんて出来ないだろうと言えば、じゃあ京一が相手をして、と来た。
また顔が崩れた。


授業中のヒソヒソ話とは言え、言いたい事があるなら口で言えば早いだろう、と言うのが京一の考え。
わざわざクラスメイト数人を間に挟んでまで、手紙を遣り取りする必要が何処にあるのか。

そもそも、何故か判らないが、龍麻とは一々言葉を交わさなくてもなんとなく意志が通じてしまうのだ。
仲介人を交える意味が判らない。


面倒臭いし、女々しいしで、冗談じゃないと言ったら、途端に龍麻はしょんぼりしてしまった。
何故其処まで凹むんだと思った――――思ったが、結局京一の方が負けた。

負けた途端にケロリと笑顔になったので、あれは演技だったんじゃないかと最近思うようになった。






回されて来る手紙の内容は、シンプルで――――且つ、よく判らない。


大抵は「お昼、何処で食べる?」とか、「放課後ラーメン食べよう」とか。
そんな他愛もないもので、後で話せば良い事だろうと思いつつ、律儀に付き合って返事を書いて回してもらう。
大体一言ポッキリで終わる、返事を書くから京一にしては付き合いが良い方だ。

が、時々、返事に困ると言うか、返事のしようがない事がある。
ノートの端を千切って、落書きだけを描いて寄越して来るのだ。




今日は、普通の手紙だった。
短い一文、「今日のお昼どうする?」と言うもの。






(ラーメン)





この授業が終わったら、出前の注文の電話をするつもりだった。


単語一つを書いて、前に座っている男子生徒の肩を突く。
振り返ったクラスメイトに手紙を渡して、京一は机に突っ伏す。

と、其処に隣に座っていた女子生徒に肩を突かれ、京一は仕方なく閉じかけていた眼を向ける。






(小蒔ちゃんから)





小声で告げられた名前に、眉を寄せる。
差し出されたのは、紙切れ――――手紙である。

受け取って開いてみれば、『放課後、ラーメン食べに行く人』とあり、その下に小蒔、葵、醍醐の名前。


昼飯はラーメンに決めた。
コニーのラーメンである。

美味いので、昼晩と続いても京一は気にしない。
ラーメンは大好物なので、寧ろ嬉しい。
以前は考えなかった、友人達と連れ立って行く事も、近頃は随分慣れて楽しいものになって来た。

空いているスペースに名前を書いて、前に座っている男子生徒の肩を叩く。






(龍麻ンとこ)






男子生徒はさっき回したんじゃないのか? と言う顔をしたが、受け取った。
程無くして、それは龍麻の元に回されたらしく、









「ハイ、そこッ」








運悪く英語教師にバレてチョークを投げつけられる親友を、知らない振りで机に突っ伏した。











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ちょっとだけ龍京気味。
そしてこっそり黒いかもしれない龍麻。

アニメのマリア先生のノリは結構好きです。

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