例えば過ぎる時間をただ一時でも止められたら。 忍者ブログ
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01 紙に包んで捨てましょう








猫を拾った。





仕事の帰り、野良犬に囲まれているのを見つけた。
尻尾を膨らませて威嚇していた猫は、見るからにまだ小さな仔猫だった。
ようやっと授乳期が終わったのではないかと思うぐらいの、小さな猫。

なんとなく見過ごす気にならなくて、野良犬を追い払ってやると、気が抜けたのかくったり地面に落ちた。
あちこち埃や泥だらけ、傷まで作っていた仔猫は、明らかに弱っていて、そのまま連れて帰ってしまった。
傷の手当てをして、風呂に入れてやって、飯を食わせてやると、仔猫はみるみる元気になった。
なった頃には愛着が沸いて、アパートの大家がペットに関して寛容だった事も手伝って、そのまま家で飼う事にした。


名前は、左之助。



左之助は、相楽に随分と懐いてくれた。
本来ならばまだ親元にいるであろう事から、恐らく、自分を親と認識したのかも知れないと思う。

しばらくすると、言葉を覚えて、喋るようになった。
相楽の呼び名は、最初、“さがらさん”から始まった。
宅急便やら電話やら、それで受け応えをするので、真似をする感覚だ。
しかし左之助も相楽宅で暮らしている以上、“相楽左之助”で“相楽さん”である。
可愛いけれどもなんだか可笑しいなと思ったので、名前の“総三”から“そうさん”と呼ばせるようにした。
すぐに覚えて、以来、“そうさん”と舌足らずに呼んで後ろをついて来る。


仕事から帰ると、にゃあにゃあ鳴いて迎えに来る。
寝ている時もあったが、相楽が帰って来るとひょっこり起きて、おかえりなさいと眠気眼を擦って言った。

もう、相楽は可愛くて仕方がなかった。





可愛くて仕方が無いのだけれど、躾はきちんとしなければならない。





元々野良であるという気質だろうか。
左之助は仔猫である事を差し引いても、暴れん坊でやんちゃだ。
気になるものにまっしぐら、時に猫らしくゴミ箱をひっくり返したりなんてこともしてくれる。

左之助は聞き分けの良い猫だったが、甘やかしたりしてはならない。
いけない事はいけない、決まりはきちんと教え込まなければ。






先日、一緒に公園まで散歩した時、通りかかった駄菓子屋の老婆から、丸いガムを貰った。
左之助はそれが大層気に入ったようで、もぐもぐといつまでも噛んでいる。
始めに味がなくなった時は、不思議そうに首を傾げて、そうなったらもう捨てるんだよと教えるまでいつまでも噛んでいた。

左之助がガムを気に入ったことを老婆に話すと、老婆は喜んで、袋に詰めて渡してくれた。
子供ばかりがお客さんの駄菓子屋だ、沢山詰めても100円にもならない。
こんなに悪い、と言ったら、老婆はいいから今度は猫ちゃんと来てね、とほわほわした笑みで言った。
結局それに甘えてガムを貰って、左之助に渡せばこれまた喜んで、今度お礼を言いに行こうと話した。


それから数日、ようやく仕事が一段落して休みを貰い、一緒に散歩に出かけた。
前と同じルートを通って。




あと一つ角を曲がったら駄菓子屋さんだと言う所で、左之助が盛大に転んだ。








「左之助、大丈夫か?」






小さな体を抱き起こすと、左之助はうーっと顔を顰めた。
しきりに足元を気にする仕種を見せるので、腕に抱えて足を持ち上げさせてみると、








「ああ、ガムか……」
「ガム?」







首を傾げて、左之助が鸚鵡返しした。


左之助の足の裏には、まだ捨てられて間もないガムがくっついていた。

べたべたとするそれが嫌で、左之助は一所懸命剥ごうとしたが、指で突くと今度は指についてしまう。
むっとした顔になって、左之助は躍起になったが、ガムはぐいぐい伸びるだけだ。



道の端に左之助を下ろして座らせてから、相楽はティッシュを取り出した。
足の裏にくっついたガムを、綺麗に取り除いてやる。







「そうさん、ガムって、あのガム?」
「ああ。誰かが此処に捨てたんだな」
「ひでェ事する奴がいるぜ」
「全くだな」






尻尾を膨らませて憤慨する左之助に、相楽はこっそりと笑った。







「こういう事にならないように、ガムはきちんと紙に包んで、ゴミ箱に捨てるんだぞ」
「オレ、ちゃんとしてます」
「ああ。良い子だ」






胸を張る左之助の頭を撫でて、相楽は立ち上がった。
ティッシュに包まれたガムは、コンビニ横のゴミ箱に捨てる。










角を曲がると、駄菓子屋が見えた。
仔猫の尻尾はゆらゆら、ゆらゆら、嬉しそうだった。












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何を思ったか仔猫さのパラレルに走りました。
飼い主は隊長、多分近くに克が住んでます。
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