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恋人同士になったからって、何が変わる訳でもない。
放課後に集まるメンバーは、既に見慣れたものだった。
龍麻を中心に、京一、葵、醍醐、小蒔、時に其処に遠野も加わる。
鬼との闘いも、近頃は五人揃ってのものが増えてきた。
京一が勝手な行動(無論、当人にとっては理に基くのだが、周りにそれを言わないから勝手も同然だ)も減ってきた。
何かと衝突が起きていたメンバー達だったが、そろそろ、各自の折り合いというものが着いて来た。
そんな調子で半年も過ごした頃になって、急に“親友”が“恋人”に変わったからと言って、今更付き合い方は変えられない。
変えられないし、京一は変える気もなかったのだ。
変えるとしても、何処をどう変えれば良いのかも判らない。
一日の内に初めて顔を合わせた時、声をかける時、隣に並ぶ時、一緒にサボる時。
鬼との闘いに赴く時、鼓動さえシンクロしたように同調した時、互いの無事をその眼で確認した時。
―――――既に何度となく繰り返してきた動作を、今更どう変えろと?
変えようがないだろう。
少なくとも、京一にとってはそうだった。
今日は吾妻橋達と一緒に夜の街に繰り出す予定だった。
それは龍麻にも話してあったし、見たい映画があったから、放課後は一緒に過ごせない事も告げていた。
だと言うのに、別れ際に見た龍麻の顔。
(………言いたい事があんなら、さっさと言えってんだ)
老舗の映画館の真ん中を陣取って、スクリーンを見上げながら思う。
頭の中を巡るのは、別れ際の親友の表情ばかりで、一つもストーリーに集中出来ない。
折角、前々から楽しみにしていた映画だったというのに、これでは台無しだ。
――――――判っている、なんとなく予想はついている。
多分、今の京一の態度が、龍麻にとっては腑に落ちないのだ。
恋人同士になったからと言って、何が変わった訳でもない。
龍麻とて何も劇的な変化を期待しているのではないだろうけれど、京一は余りにも変化がなさ過ぎた。
スキンシップもいつも通り、声をかける時も、鬼と闘っている時も、その後もいつも通りで。
でも、それならそれで、京一にも言い分はある。
あの日、人気のない帰り道、歩道橋の直ぐ傍で。
「好きだよ」と告げて、「愛してるよ」と告げた、親友。
そして唇を塞がれた。
嫌ではなかったのは事実で、コイツなら悪くはないかもな、とも思った。
男同士で、変な話だとは思うけれど、本当にそうだったのだから仕方がない。
あれから“恋人”同士になった――――……一応は。
でも、それきりなのだ。
(……何も言わねェ、何もしねェ。なんなんだよ)
別れ際、何か言いたそうな顔をして。
でも結局、彼は「また明日ね」と言っただけ。
そう、あれっきり。
触れてきたのは、あの時限り。
(好きだったんじゃ、ねェのかよ)
龍麻がいつから自分の事が好きだったのか、京一にはよく判らない。
判らないけれど、別にいつからでも構わなかった。
男相手に面と向かって好きだといって、キスまでしてきた。
そんな行動に出てしまう位には、龍麻は自分の事が好きだったのではないのか。
―――――なのに、あれからノーアクションとはどういう事だ。
(ワケ判んねェ)
映画はもう終盤にさしかかっている。
前半の話がどういうものだったのか、ちっとも頭に残っていない。
映画の主人公が、イイ事を言っている。
でも、頭に入らない。
カラッポの、決められた台詞だとしか、思えない。
頭の中を巡るのは、あの時触れた、一瞬の熱と。
別れ際に見た、親友の顔。
嫌だとは思わなかった、嫌いとは思わない。
でも、感情は持て余したままで。
この感情は、「愛してる」と言った彼と、正しく同じベクトルを向いているのだろうか。
戸惑ったままで“親友”が“恋人”になって、それは嫌じゃないんだけど、
だからって何をどうすれば良いのか判らなくて、すっかり受身になってる京一。
龍麻が何も行動してこないので、余計にぐるぐる。
……この龍麻、ヘタってる……?