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親友。
相棒。
そういう言葉が、一番しっくり来る。
言葉を告げた時、月並みな台詞に弱いらしい親友は、顔を赤くして「そうかよ」と言った。
ああ意味を判ってくれてないなと(予想はしていたけれど)思ったから、次は「愛してるよ」と言った。
親友はきょとんとした後、露骨に顔を顰めて、「なんの冗談だ、そりゃあ」と言って背を向けた。
そのまま見送っても良かったのだけれど、それでは今までの日々と変わらないから、追いかけて捉まえた。
「本当に愛してるんだよ」と正面から言ったら、ようやく理解してくれたらしい。
この言葉が冗談でもなければ、語弊でもなく、心の底からの言葉だと言う事を。
関係が壊れてしまうことは覚悟の上で、気持ち悪いと言われてしまうのも覚悟の上で。
龍麻は龍麻なりに、断腸の思いで京一にその言葉を告げたのだ。
京一は唖然とした表情で龍麻を見つめ、「……マジで?」と言った。
視線を逸らさずに頷いて、証拠を求められる前に、見せた。
いや、して見せた。
ぽかんと半開きになった唇にキスを。
唇を離した後、しばらく呆然としていた京一は、我に返ってから拒絶をしなかった。
真っ赤になって龍麻の頭を木刀で思い切り殴った後、脱兎の如く駆け出して、近くにあった歩道橋に昇っていった。
そして自分達以外、誰もいない、車の音だけが止まない歩道橋の上から、言ってくれた。
嫌いじゃねえよ、と。
感謝の気持ちだとか、好意だとかを素直に表せない性格だ。
それでも嫌いなものは嫌いだと、不満は不満ときっぱり告げて斬り捨てる、残酷さに似た優しさを持っている。
彼は、それをしなかった。
受け止めてくれたとも言い難いけれど、斬り捨てる事はしなかった。
あの時、真っ赤になっていたのも含めて、脈アリと見ても良いだろう。
だけど。
咆哮をあげて襲い掛かってくる鬼に、龍麻は怯む事無く踏み込んだ。
そのまま、鬼に向かって突進する。
正面から向かって来る無謀な人間を狙って、鬼が両腕の鎌を振り上げた。
しかしそれは下ろされる事無く、上腕部から切り離され、鮮血を散らして宙に舞う。
切断面は綺麗なものだった。
腕の痛みに絶叫を上げた鬼の腹部に、龍麻は正拳を打った。
餌付き、屈んだ鬼をそのまま力任せに上空へ打ち上げ、追って跳躍する。
鬼を挟んだ反対側で、剣線が閃いた。
再生能力を持った鬼。
それでも心の臓を砕かれれば、頭部が飛べば死に至る。
寸分狂わぬタイミングで、龍麻の拳が鬼の心臓を貫き、京一の木刀が鬼の頭部を切り取った。
鬼が消滅する。
京一は木刀を肩に担いで、フンと鬼のいた場所を一瞥する。
「図体デカかった割には、大した事なかったな」
懐に仕舞っていた太刀袋を取り出して、それに木刀を納める。
龍麻も体の埃を軽く払うと、右手の手甲を外した。
くるりと踵を返して、他のメンバーとの合流に向かう。
その体には傷一つなく、それは龍麻も同じ事。
庇い合う程に依存しあう関係ではなく、守りあう程に互いを信頼していない訳でもなく。
傷の一つ二つを負った所で、声をかける事はあっても、助けに行くほど柔ではない。
「まぁ、俺達にかかりゃ、あんなの雑魚だな」
背中を預けた関係は、守りあうものではなく、突き進む為に。
肩越しに振り返って笑う親友に、微笑み返す。
満足そうな京一に、龍麻もまた嬉しくなって。
だけど。
だけど。
親友。
相棒。
その存在は、とてもとても大切だけど。
“恋人”と言うには、なんだか程遠い気がして、溜め息が漏れた。
ずっと親友のスタンスだったから、急にスイッチの切り替えは無理ですよ。
全くいつも通りの京一と、やきもき龍麻。