[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
珍しく生物の授業に出席して、犬神から三つ四つ厭味を喰らった。
ああやっぱ出るんじゃなかったと思いながら、1時間を欠伸をしながら過ごす。
終わった時には眠気はピークで、もう次の現代国語はサボタージュする事に決めた。
ついでに相棒もサボタージュに誘ってみるかと思って振り返ると、定位置の席に相棒の姿がなかった。
京一に負けず劣らず、授業中に気を抜けばうたた寝する人物だ。
授業が終わると、眠そうに目を擦っている事も多く、声をかけてようやく「授業、終わり?」と問うてくる。
――――それが今日は、いなかった。
便所にでも行ったのだろうか。
ならば一々待っているのも、誘いに行くのも面倒臭い。
いないアイツが悪い、と京一は意味もなく決めて、廊下に出た。
すると。
「――――――あァ?」
教室を出た直ぐの場所に、龍麻は立っていた。
何してんだと声をかけようとして、その陰から女子生徒が背を向けて走り去っていくのが見えた。
ああ、なる程。
「おい、龍麻」
「……京一」
にやにやと口角が上がるのが止められない。
振り返った龍麻の手には、予想通り、可愛らしい封筒入りの手紙。
渡し主は間違いなく、先ほど走り去っていった女子生徒だろう。
後姿で顔は見れなかったが、ぱっと見た限りでは、良い発育をしていたと思う。
「相変わらずモテてんなァ」
「……そうかな?」
封筒の口を開けて、取り出されたのも、また可愛い便箋。
手紙の内容は予想通り、“好きです”“付き合ってください”。
後はいつ頃から好きになったのか、いつもあなたの事を想っている、等々―――――
青春真っ盛りの恋に恋する女の子の手紙であった。
転校してきた春から、龍麻の人気は相変わらずだ。
顔は良いし、笑顔や寝顔が可愛い、雰囲気に同じくお人好し。
更には遠野が言っているように、“何を考えているか判らない”=“ミステリアス”というイメージが更に人気を呼んでいる。
……京一から言わせて貰えば、“何も考えていない”若しくは“苺の事しか頭にない”程度のものだが。
こうしてラブレターを貰う事も少なくない。
が、龍麻は一向にそれらに応える様子はなかった。
相手がどんなに可愛くても、美人でも、スタイルが良くても。
彼女の一人や二人がいても可笑しくないと思うのだが、何故か龍麻はそうしない。
理由は知らない、何せ“何を考えているか判らない”のだから。
しかし、意外と大胆な女だな、手紙の可愛らしい文字を眺めながら京一は思った。
何せ放課後ではなく、授業合間の休憩時間、生徒の出入りは放課後よりも激しい。
人目に付きまくっている場所で、競争率の高い龍麻相手に、よくこんな行為に出れたものだ。
一歩間違えれば、他の生徒からのやっかみも買う事になるだろうに。
それほど、龍麻と付き合いたいと言う事か。
「ま、ちょっとは考えてみたらどうだ?」
「……何が?」
「だから、付き合うかどうかって話だよ」
「……京一だったらどうするの?」
「あん?」
なんでオレの話に切り替わるんだ? と思うものの、京一は龍麻の恋愛経験の浅さを思い出した。
京一はしばし考えてみたが、浮かぶ選択肢は、所詮は二択。
イエスかノーか。
「試しに付き合ってみる、てのはあるかもな」
「…試しに?」
「気が合うか合わないか、合うならそのままだし、合わないようなら自然と別れるだろ」
事実、そんなものだと京一は思った。
どんなに一目惚れだとか、何年も好きだったとか言われても。
実際に付き合ってみれば、気に入らない所は幾らでも見付かるし、問題も起きる。
それでも続くようなら続くし、駄目ならどちらともなく、終わるだけだ。
だから少しでも気になるなら、試しに―――お友達からでも始めてみればいい。
「ふぅん………」
手紙に視線を落として、龍麻は考えるように首を傾けた。
そのまま思考の海に沈んでいるように見えて、京一はサボタージュの誘いはしない事にする。
「あんまり深く考えなくてもいいだろうけどな」
傾いたままの龍麻の頭を軽く叩いて、京一は歩き出した。
がやがやと人の出入りの多い廊下を、お気に入りの寝床を目指して。
考え込んでいる相棒の方は、一度として振り返らなかった。
だから、京一はこれから先も、知らないままだった
手紙の宛先が、本当は誰に向けられたものだったのか。
龍麻に渡された手紙は、本当は京一宛でした。
京一もなんだかんだで、女の子には人気あるんじゃないかと。
京一は恋愛経験ナシでもいいんですが、普通程度にあっても可笑しくないと。
…でも長続きしないんじゃねーかな…