例えば過ぎる時間をただ一時でも止められたら。 忍者ブログ
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02 休み時間の廊下








珍しく生物の授業に出席して、犬神から三つ四つ厭味を喰らった。
ああやっぱ出るんじゃなかったと思いながら、1時間を欠伸をしながら過ごす。

終わった時には眠気はピークで、もう次の現代国語はサボタージュする事に決めた。



ついでに相棒もサボタージュに誘ってみるかと思って振り返ると、定位置の席に相棒の姿がなかった。
京一に負けず劣らず、授業中に気を抜けばうたた寝する人物だ。
授業が終わると、眠そうに目を擦っている事も多く、声をかけてようやく「授業、終わり?」と問うてくる。

――――それが今日は、いなかった。


便所にでも行ったのだろうか。
ならば一々待っているのも、誘いに行くのも面倒臭い。

いないアイツが悪い、と京一は意味もなく決めて、廊下に出た。





すると。







「――――――あァ?」







教室を出た直ぐの場所に、龍麻は立っていた。
何してんだと声をかけようとして、その陰から女子生徒が背を向けて走り去っていくのが見えた。

ああ、なる程。






「おい、龍麻」
「……京一」






にやにやと口角が上がるのが止められない。

振り返った龍麻の手には、予想通り、可愛らしい封筒入りの手紙。
渡し主は間違いなく、先ほど走り去っていった女子生徒だろう。
後姿で顔は見れなかったが、ぱっと見た限りでは、良い発育をしていたと思う。






「相変わらずモテてんなァ」
「……そうかな?」






封筒の口を開けて、取り出されたのも、また可愛い便箋。

手紙の内容は予想通り、“好きです”“付き合ってください”。
後はいつ頃から好きになったのか、いつもあなたの事を想っている、等々―――――
青春真っ盛りの恋に恋する女の子の手紙であった。



転校してきた春から、龍麻の人気は相変わらずだ。
顔は良いし、笑顔や寝顔が可愛い、雰囲気に同じくお人好し。
更には遠野が言っているように、“何を考えているか判らない”=“ミステリアス”というイメージが更に人気を呼んでいる。

……京一から言わせて貰えば、“何も考えていない”若しくは“苺の事しか頭にない”程度のものだが。


こうしてラブレターを貰う事も少なくない。
が、龍麻は一向にそれらに応える様子はなかった。
相手がどんなに可愛くても、美人でも、スタイルが良くても。

彼女の一人や二人がいても可笑しくないと思うのだが、何故か龍麻はそうしない。
理由は知らない、何せ“何を考えているか判らない”のだから。




しかし、意外と大胆な女だな、手紙の可愛らしい文字を眺めながら京一は思った。
何せ放課後ではなく、授業合間の休憩時間、生徒の出入りは放課後よりも激しい。
人目に付きまくっている場所で、競争率の高い龍麻相手に、よくこんな行為に出れたものだ。
一歩間違えれば、他の生徒からのやっかみも買う事になるだろうに。

それほど、龍麻と付き合いたいと言う事か。







「ま、ちょっとは考えてみたらどうだ?」
「……何が?」
「だから、付き合うかどうかって話だよ」
「……京一だったらどうするの?」
「あん?」






なんでオレの話に切り替わるんだ? と思うものの、京一は龍麻の恋愛経験の浅さを思い出した。

京一はしばし考えてみたが、浮かぶ選択肢は、所詮は二択。
イエスかノーか。






「試しに付き合ってみる、てのはあるかもな」
「…試しに?」
「気が合うか合わないか、合うならそのままだし、合わないようなら自然と別れるだろ」





事実、そんなものだと京一は思った。


どんなに一目惚れだとか、何年も好きだったとか言われても。
実際に付き合ってみれば、気に入らない所は幾らでも見付かるし、問題も起きる。
それでも続くようなら続くし、駄目ならどちらともなく、終わるだけだ。

だから少しでも気になるなら、試しに―――お友達からでも始めてみればいい。






「ふぅん………」






手紙に視線を落として、龍麻は考えるように首を傾けた。
そのまま思考の海に沈んでいるように見えて、京一はサボタージュの誘いはしない事にする。







「あんまり深く考えなくてもいいだろうけどな」






傾いたままの龍麻の頭を軽く叩いて、京一は歩き出した。
がやがやと人の出入りの多い廊下を、お気に入りの寝床を目指して。

考え込んでいる相棒の方は、一度として振り返らなかった。







だから、京一はこれから先も、知らないままだった












手紙の宛先が、本当は誰に向けられたものだったのか。















龍麻に渡された手紙は、本当は京一宛でした。
京一もなんだかんだで、女の子には人気あるんじゃないかと。

京一は恋愛経験ナシでもいいんですが、普通程度にあっても可笑しくないと。
…でも長続きしないんじゃねーかな…
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