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歌舞伎町の夜は、眩いネオンが何よりもその世界を鮮やかに彩る。
自然光ではないが故の虹彩を、龍麻は決して嫌いではなかった。
幾つも連立する人工灯は、見つめ続けていれば確かに網膜が焼かれるのではと思う事もある。
けれど、だからと言ってそれを嫌いになるには、その程度の理由はささやか過ぎた。
これはこれで、この東京と言う地、歌舞伎町という空間によく似合う。
あちこちで飛び交う呼び込みの声も、龍麻は決して嫌いではないのだ。
それが此処で生きるモノ達の作り出した、この空間独自の虹彩であるのだから。
歩き慣れた道だと、一歩先を歩くのは、真神に来てで出逢った無二の親友。
何よりも誰よりも信頼する事の出来る、たった一人のかけがえのない相棒。
そして―――――……大切な、大切な、想い人。
「龍麻、其処寄って行こうぜ」
振り返り、シルバーアクセサリーを並べた露店を指差して、京一が言った。
龍麻は、アクセサリー類にそれほど興味を持った事がなかった。
今でもそれは同じで、身につけるほど親しみを覚える事もない。
けれども京一がそう言うのなら、と龍麻は相棒の言葉に頷いた。
それを受けた京一は、嬉しそうににぃっと笑って、示した露店に近付いた。
「よう、京ちゃんじゃねェか」
「京ちゃん言うな。アンタ、今日は此処なんだな」
「今週は此処にいるつもりだよ」
どうやら、露店の主人は京一の知り合いらしい。
つくづく顔が広いと思う。
商品の品定めをするよりも、京一は店主との話に盛り上がっている。
その傍らで、龍麻は気紛れに、並べられた商品を眺めてみた。
主な商品はガイコツや爬虫類を模した装飾品だったが、幾つか、女子が好きそうなものもあった。
ピンク色の石を埋め込んだリングや、ターコイズのブレスレット、蝶を模したピアス。
京一と店主の話を半分気分で聞いていると、どうやら全てが店主の手製らしい。
随分と手が凝っている、道理でちらりと見た値札の桁が少々大きい訳だ。
「あくどい商売すんじゃねーぞ、また死にかけるぜ?」
「ああ、其処は気ィ付けてるよ。そう何度も京ちゃんに頼る訳にゃァ行かねェからな」
物騒な会話でさえ、京一と店主にとっては単なるスパイスらしい。
龍麻も、常日頃京一と一緒にいるお陰で、こんな会話も随分耳慣れた。
最初の頃に面食らったかと言われれば、それ程でもなかったが。
気紛れに、並べられた商品の一つを手に取った。
銀細工の、くり貫かれた星。
周囲のネオンに照らされたそれは、一瞬ごとに違う光を反射させた。
人差し指と親指で持って、中でゆらゆら揺らしてみると、人工灯の虹彩がきらきら光る。
「なんでェ龍麻、そんなもん欲しいのか?」
「そんなモンとはご挨拶だねェ、京ちゃん」
龍麻の様子に気付いた京一の言葉に、店主が笑いながら割り込んだ。
「キレイだね、これ」
京一に星を見せて言うと、京一はそうか? と眉間に皺を寄せる。
悪い印象はないのだろうが、京一はこの手の物に興味がなさそうだ。
否定はしないが肯定もしないまま、京一は首を傾げた。
「そいつはペアになってんだ。もう一つはこっち」
早速商売人の顔になって、店主はペアだと言う星を差し出した。
同じ銀細工のくり貫かれた星は、ぱっと見ると違いが判らない。
よくよく見れば銀縁の象りに、《Ms.》《Mr.》と彫られている。
此処にそれぞれの名前を彫って、二人一組お揃いで持つのだ。
龍麻はじっと対の星を見つめた後、
「これ、こっちじゃないとダメですか?」
「ん? いや、二つとも買ってくれるんだったら、セット料金にしとくよ。京ちゃんの友達だからな」
「……………」
友達。
その一言に、京一が無言で紅潮した。
ちらりと見てみれば、視線から逃れるように京一はそっぽを向く。
その様子にクスリと笑って、名前のイニシャルは? と問う店主に向き直り、そっと顔を近付けて伝える。
店主は聊か驚いたような顔をしたが、少しするとにぃと笑い、そうかそうかと嬉しそうに作業に取り掛かった。
「京一」
「あん?」
「はい、あげる」
困りながら受け取って、身につける訳にも行かずに更に困ってればいいよ!
そんで「無理につけなくていいからね」とか龍麻に言われて、
でもやっぱ貰ったんだから一度ぐらいは…とかで目立たない所に身につけてるとか。
アニメの京一はシルバーアクセが似合うと勝手に思ってる私(爆)。