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ぽつぽつ。
ぽつぽつ。
雨が降っている。
風はなく、ただ真っ直ぐに天から大地へと降ってくる。
その柔らかな雫の向こう側、立ち尽くす親友を、龍麻はただ見つめていた。
少し後ろから、嗚咽を飲み込めなかった小蒔の泣く声がする。
葵は何も言わず、ただ涙する小蒔の肩を慰めるように抱き締めた。
京一と龍麻の間には、醍醐がいた。
醍醐は龍麻と同じように、雨の中に佇む京一を見つめている。
時折何か告げようとするように肩を震わせるが、結局それは音にならなかった。
佇む京一の表情は、判らなかった。
背中を向けている所為もある。
でも、それよりも何よりも、その背中は、拒否しているように見えた。
―――――去来する筈の、全ての感情を。
迷いもなく、躊躇いもなく、京一は貫いた。
己が何よりも誇るその刃で、何よりも信じるその剣で。
斬ってくれ。
殺してくれ。
“彼”はそう言った。
京一はそれに頷かなかった、醍醐は苦しげに唸っていた。
それでも一つの躊躇いもなく、京一は“彼”を貫いた。
“彼”の名を、龍麻は知らない。
京一と醍醐だけが知る人物だった。
偶然の再会だった、最悪の再会だった。
…もしかしたら幸いだったのかもしれない―――唯一“彼”にとっては。
ヒトとして理性の残る内に、誰をその手で傷つける事もなく逝けたのならば。
でも、それはあまりにも身勝手で自分本位な喜び。
迷いもなく、躊躇いもなく、真っ直ぐにその躯を貫いた人物が泣かないなんて、そんなのは違う。
ぱしゃりと音がして、京一が踵を返し、振り返った。
雨に濡れた前髪が目元を隠し、真一文字に閉じられた口は綻ぶことはなかった。
ぎ、と言葉が見付からぬもどかしさに歯を噛む醍醐の隣に並ぶと、京一の腕が上がる。
とんっと殴る訳でもなく、けれど押すと言う程優しいものでもなく。
京一の拳が醍醐を突いて、また京一は歩を進め、醍醐から離れていく。
何も言わずに、京一は龍麻の傍を通り過ぎた。
追いかけるように振り返れば、京一は葵と小蒔に近付いていた。
小蒔が怒りのような、悲しみのような、色々な感情がごちゃ混ぜになった瞳で京一を睨む。
葵は戸惑うように視線を泳がせ、また伏せてしまった。
京一は何も言わなかった。
葵が例えば慰めても、小蒔が例えば怒鳴っても、きっと何も言わなかっただろう。
……結局京一は、何も言わずに彼女達から離れて行った。
降る雨の存在すら忘れたかのように、常と変わらぬ所作で平静とした足取りで。
まるで何も感じないかのように、まるで何事もなかったかのように。
―――――何一つ其処に感情など存在しないかのように。
「―――――――京一」
呼びかけると、京一の足が止まった。
振り返る仕種が、スローモーションに見えた。
京一の周囲だけが、色が褪せているように思える。
色を、失って。
「行こうぜ、龍麻」
なんでもないと、無表情を装った、その頬。
伝い落ちていく雫は、きっと、ただの雨の雫。
あれ、ほのぼのじゃないよ……?
でもお題見た瞬間に思い浮かんだのが、泣きたいのを雨で誤魔化す京ちゃんだったんです。
……インスピレーション優先ですいません……
鬼と闘い続けてる間に、身近な人とか、嘗て友人だった人に会ったりする事もあったんじゃないかと。小蒔みたいに。
そんな人を自ら手にかけることになって、一番苦しくて一番吐き出したい時に、一番堪えてしまったりとか。
京ちゃん可哀想なことにしてごめんなさい…!(これもうお礼じゃねえよ…)