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今朝の天気予報を見ていて良かった。
午前中から昼にかけては見事な青空だったのに、午後の授業から空は雲に覆われた。
帰る頃には見事に土砂降りになって、生徒たちは皆文句を言いながら昇降口を後にした。
あの中の半分程は濡れて帰るつもりらしく、猛ダッシュで校門へ向かっていた。
そんな中で龍麻は、しっかりと折り畳み傘を持ってきていた。
今朝の天気予報を見た時はまさかと思ったのだが、やはり備え在れば憂い無し。
多少かさばるのは仕方のない事として持ってきたのが、無事に功を奏した。
グラウンドに出ると、土砂降りの中、あちこちで一緒に帰ろう、と誘い合う声がする。
そんな中を真っ直ぐに校門に向かって。
「………京一?」
見慣れた親友が、大きな校門に寄り掛かっているのが見えた。
京一の学ランの肩は濡れていて、ズボンの足元も同じ。
泥も散々跳ねたのだろう、靴の紅に茶色が染み付いている。
それでも全身ズブ濡れ、という程ではなかった。
昇降口を出て此処まで走ってきたのだろう事は想像に難くない。
そして彼の手にあるのは相変わらず愛用の木刀のみで、傘なんて文明の利器は存在しなかった。
ぱしゃりと、龍麻の足が校門近くの水を跳ねた。
それに気付いて京一が此方に顔を向ける。
「やっと来たか」
「……何してるの?」
まるで自分を待っていたかのような台詞に、思わず龍麻は問い掛けた。
「決まってんだろ。傘入れろよ」
傲岸不遜とも取れるような言い方での要求。
京一らしくて苦笑する。
「吾妻橋君、今日は来ないの?」
校門一歩手前で立ち止まって、龍麻は尋ねた。
京一が余分なものを一つも持たずに学校に来るのは、いつもの事だ。
ティッシュだのハンカチだのも持っていないのは珍しいことではない。
代わりに、すっかり舎弟になっている吾妻橋がそういう物を揃えて持ってくる。
しかし今日はこの大雨であるにも関わらず、舎弟達の姿は見られない。
京一に心酔しきっている彼等の日頃の行動を思うと、珍しいものだ。
「ま、アイツ等にも事情はあるからな。第一、今日雨が降るなんて聞いてねェし」
「天気予報で言ってたよ」
「見ねェよ、そんなもん」
と言うか、京一が毎朝テレビを見れる状態に在るかが甚だ怪しい。
根無し草にあちこち泊まり歩いているのだから。
「校門までは走って来たの?」
「帰れるかと思ったんだけどな。意外と濡れちまったし」
「そりゃこの雨だし。当たり前だよ」
真神学園の昇降口から校門までは、決して短い距離ではない。
それをこんな土砂降りの中で走りぬけようとすれば、どうなるか。
相変わらず、結果を考えない相棒に、龍麻は眉尻を下げて笑った。
校門まで来て、思った以上に濡れた事に気付いて。
今日は何処に泊まるのだか知らないが、其処まで走って行くにはキツいと思ったのだろう。
そして。
「京一」
「あん?」
校門に入って、傘を少しだけ傾ける。
ポタポタと、大きくはない傘から雨の雫が流れて落ちた。
「僕が傘持ってなかったら、どうするつもりだったの?」
例えば、先に葵や小蒔、醍醐が来ていたら。
慌てた様子で吾妻橋が走って来たら。
その人達と、一緒に帰るつもりだったの?
僕が傘を持ってなかったら、その人達が来るまで待つの?
声にならなかった問いかけに、京一は少し不思議そうに首を傾げて。
なんでそんな事を聞くんだと言っているように見えたけれど、龍麻はそれを言わなかった。
「そりゃ、お前」
木刀を肩に担いで、ニヤリと面白そうに笑う。
「二人でズブ濡れになって帰るんだろ」
――――――傘なんてなくたって、
オレはお前を待ってたよ。
折り畳み傘って、男二人が入るには小さいよね…
肩濡らしながらくっつきあって帰ればいいよ!