例えば過ぎる時間をただ一時でも止められたら。 忍者ブログ
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03 黄昏マジック







夕暮れ時になると、それまで見える風景が大きく変わってくる。
其処にあるパーツは変わらないのに、降り注ぐ色が違うからだ。

昼間に降り注ぐ光が暖かい黄色だと言うなら、この時間は少しだけ冷たい緋色か。
赤というほどはっきりとした鮮明なものではなく、眩しいと言い切るには寂しい光。
東空には逆の色を持った藍色がゆっくりと、水彩絵の具のように滲んで広がっていっていた。


京一にとっては、ごくごく見慣れた光景だ。
時にはこの屋上ではなく、校庭に聳える木の上で眺めてきた。
この真神学園に入学してから、ずっと。




昼間とは違う景色。
陽が沈めば、闇色に埋もれていく景色。

束の間に生きるこの光景が、京一は嫌いだった。


刹那にしか生きていけないのに、酷く強く印象に残るこの光景が。






そして、今。










「あ、京一」










遠く広がる景色を眺めていた相棒が、振り返る。
いつも何処かぼんやりしていた面に、夕暮れ時の強いコントラストが差し込んでいた。



京一が認識していた親友の存在は、まるで空気のようなものだった。
其処にあるのが当たり前で、わざわざ改めて確かめるようなものではない。
ふと振り返れば其処にいて、振り返らなくても其処にいて、京一はそう思っていた。

闘いの最中でも、葵や小薪に対するように、その無事を確認しようとは思わない。
醍醐の場合はまた別だけれど、彼と目の前の親友とでは、京一の中で明らかに位置が違った。
何も言わなくても、その姿を見なくても、其処にいるのが判る。
だから京一にとって、この相棒は、其処にあって当たり前の、空気のようなものだった。


――――そう思っていた事を、疑ったこともない。



……筈、だった、のに。









「―――何? どうかした?」









強いコントラストに彩られたその輪郭は、くっきりと陰影を映し出し。
ふわりふわりとした面が、常は感じさせない存在感を醸し出していた。


この、刹那の刻の中で。




あと半刻もすれば闇に溶ける、この刹那の刻の中で。










「…………ムカつく。」

「え!?」









それ以上、強い存在感を視覚認識を持って確認したくなくて、背を向けた。

一言投げかけて、そのまま屋上を降りる階段に向かう京一を、龍麻が駆け足で追いかけてくる。
僕何かした? という質問が聞こえたが、京一は答えなかった。










(誰が言ってやるもんかよ)












刹那に生まれたその存在感が、

あと半刻で消えてしまうんじゃないかと思って、





―――――――酷く寂しくなったなんて、誰が教えてやるもんか。














目を閉じてたって判るのに、眼を開けてみたら消えて行きそうに見えた。

龍→京ばっかじゃなくて、たまには龍←京も。
でも京ちゃんツンデレですから、こんなん出ました。
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