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駄菓子屋で安かったから、買ってきた。
シャボン玉。
いつものように京一と一緒に、授業をサボって。
ズボンのポケットに入れていたそれを思い出して、取り出した。
京一に見せると、彼は眉根を寄せて、
「お前、そんなもんどうするんだ?」
―――――どうって、遊ぶしかないだろう。
ふわりふわりと飛んでいく、柔らかい球体。
今日の風はそれほど強くなかったのが幸いした。
のんびり眺めるぐらいには、それは僕らの前に存在していた。
グラウンドに流れて行くシャボン玉を、揃って眺める。
「楽しいね、シャボン玉」
「ん……まぁ、そうだな」
女子供の遊ぶ道具だ、と言っていた京一だったけれど。
童心に返ったのか、シャボン玉を眺める眦はいつもより優しく見えた。
「京一もやる?」
何気なくそう問い掛けてみる。
やらねえよ、という言葉が返ってくるものだと思っていた。
けれど予想に反して、少しの沈黙の後、無言で京一の手が出された。
落とさないように少し気をつけながら、シャボン玉の道具を手渡す。
ふぅっと拭けば、小さなシャボン玉が空に散らばった。
「面白い?」
「……あー」
気のない返事だ。
それでも、止める気はないらしい。
そんな京一に笑みを零して、僕はフェンスに寄り掛かる。
「京一って、シャボン玉、好き?」
また小さなシャボン玉が散らばる。
ふわりと柔らかい風が拭いて、散らばったシャボン玉は空に流れて行った。
青空の中、てんてんと、虹色の球体が孤を描く。
京一の視線は、じっとシャボン玉に向けられている。
いや、ひょっとしたら、それさえ見ていないのかもしれないけれど。
「嫌いじゃ、ねぇよ」
流れて行くシャボン玉を見送って、呟かれたのはそれだけ。
手を差し出すと、言わなくても判ったらしい。
シャボン玉の道具が返された。
フェンスに背中を預けて寄り掛かったまま、ゆっくり吹く。
少し大きなシャボン玉が、ぷかりと空に浮かんだ。
その大きなシャボン玉に、僕と、京一が映り込んでいた。
「僕も好きだよ」
「だろうな」
じゃなきゃ遊び出したりしないだろう、と。
京一のその呟きに、笑う。
もう一度、今度はさっきよりもゆっくり、息を吹いて。
また一回り大きなシャボン玉がぷかりと浮いた。
映り込んだ京一の顔を見つける。
「ホントに、好きだよ」
判ってるよ、と。
判っていない声が聞こえて。
――――――面と向かって言えたら良いのに。
ちょっとヘタレな龍麻君。
顔を見ないで告白しても、気付かない京ちゃん。