例えば過ぎる時間をただ一時でも止められたら。 忍者ブログ
  • 10«
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • 6
  • 7
  • 8
  • 9
  • 10
  • 11
  • 12
  • 13
  • 14
  • 15
  • 16
  • 17
  • 18
  • 19
  • 20
  • 21
  • 22
  • 23
  • 24
  • 25
  • 26
  • 27
  • 28
  • 29
  • 30
  • »12
[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

02 思いをシャボン玉にのせて






駄菓子屋で安かったから、買ってきた。
シャボン玉。





いつものように京一と一緒に、授業をサボって。
ズボンのポケットに入れていたそれを思い出して、取り出した。

京一に見せると、彼は眉根を寄せて、






「お前、そんなもんどうするんだ?」






―――――どうって、遊ぶしかないだろう。













ふわりふわりと飛んでいく、柔らかい球体。
今日の風はそれほど強くなかったのが幸いした。
のんびり眺めるぐらいには、それは僕らの前に存在していた。

グラウンドに流れて行くシャボン玉を、揃って眺める。







「楽しいね、シャボン玉」
「ん……まぁ、そうだな」







女子供の遊ぶ道具だ、と言っていた京一だったけれど。
童心に返ったのか、シャボン玉を眺める眦はいつもより優しく見えた。








「京一もやる?」







何気なくそう問い掛けてみる。
やらねえよ、という言葉が返ってくるものだと思っていた。

けれど予想に反して、少しの沈黙の後、無言で京一の手が出された。


落とさないように少し気をつけながら、シャボン玉の道具を手渡す。




ふぅっと拭けば、小さなシャボン玉が空に散らばった。








「面白い?」
「……あー」







気のない返事だ。
それでも、止める気はないらしい。
そんな京一に笑みを零して、僕はフェンスに寄り掛かる。








「京一って、シャボン玉、好き?」








また小さなシャボン玉が散らばる。
ふわりと柔らかい風が拭いて、散らばったシャボン玉は空に流れて行った。
青空の中、てんてんと、虹色の球体が孤を描く。

京一の視線は、じっとシャボン玉に向けられている。
いや、ひょっとしたら、それさえ見ていないのかもしれないけれど。








「嫌いじゃ、ねぇよ」








流れて行くシャボン玉を見送って、呟かれたのはそれだけ。



手を差し出すと、言わなくても判ったらしい。
シャボン玉の道具が返された。

フェンスに背中を預けて寄り掛かったまま、ゆっくり吹く。
少し大きなシャボン玉が、ぷかりと空に浮かんだ。
その大きなシャボン玉に、僕と、京一が映り込んでいた。








「僕も好きだよ」
「だろうな」







じゃなきゃ遊び出したりしないだろう、と。
京一のその呟きに、笑う。




もう一度、今度はさっきよりもゆっくり、息を吹いて。
また一回り大きなシャボン玉がぷかりと浮いた。

映り込んだ京一の顔を見つける。












「ホントに、好きだよ」












判ってるよ、と。
判っていない声が聞こえて。



――――――面と向かって言えたら良いのに。















ちょっとヘタレな龍麻君。
顔を見ないで告白しても、気付かない京ちゃん。
PR

コメント
この記事へのコメント
コメントを投稿する
URL:
Comment:
Comment:
Pass:
トラックバック
この記事のトラックバックURL

この記事へのトラックバック