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妙に視線を感じるので、振り返ってみれば。
手に持った石越しに、自分を見つめる親友に気付いた。
龍麻が持っているのは、瓶のラムネについていたビー玉だ。
昼休憩の時にラムネを飲んでいたのは京一で、何気なくその中のビー玉を出したら、龍麻が欲しがった。
別に必要ないものだったので、京一はすぐに龍麻にそれを譲り渡した。
それから休憩時間も授業中も、龍麻はビー玉に夢中になっている。
謎の転校生の不思議な行動には、京一はもう慣れてしまった。
何を考えているか判らないので、変に勘繰る方が疲れるのだ。
だが、この行動には口を出さずにはいられなかった。
「なんだよ龍麻、ジロジロ見やがって」
視線が不快とは言わないが、あまりに見られては気になるというもの。
増して周囲の気配に敏感な京一は、必要以上にそれを感じてしまうのだ。
龍麻はまだビー玉越しに京一を見ている。
一見すればビー玉だけを眺めているようにも見える。
が、京一は確かに、その小さな石の向こう側から、強烈な視線を感じるのだ。
あのビー玉は透明ではないけれど、不透明と言うほどでもない。
覗き込めば向こう側が薄らと透けて見える。
其処から龍麻は、じっと京一を見ているのだ。
休憩時間も、授業中も、飽きずに、ずっと。
「んー………」
夢中になっているのか、龍麻は京一の問いに答える気はないらしい。
溜め息を一つ吐いて立ち上がると、龍麻も動いた。
近付いてくる京一にしっかりと標準を合わせ、相変わらずビー玉越しに見つめて来る。
「おい、龍麻」
「なに?」
席の横まで来て声をかけると、ようやっと返事があった。
座ったままの龍麻を、京一は見下ろしていた。
それだけ距離が近くなっても、龍麻はビー玉を覗くのを止めない。
ビー玉の位置は、龍麻の右目に程近い距離にあった。
京一から見ると、親友の目にビー玉がそのまま埋め込まれたように見える。
指先で掴んでいるのは判っているが、だってビー玉越しに目玉がこちらを見ているのだ。
半透明のガラス球体が目玉の役目を果たしているような錯覚に陥ってしまう。
「それ、やめろ」
「なんで?」
「なんか気持ち悪ィ」
顔を顰めてそう言うと、龍麻はしばしきょとんとした。
が、京一が本気で嫌がっているのは判ったらしく、ビー玉を机の上に転がした。
コロンと転がったビー玉は、程無くしてピタリと動きを止めた。
「なんか面白いモンでも見えたのかよ」
「うん。京一が見えたよ」
「……別に面白くもなんともねェだろ」
「面白いよ。京一だもん」
にっこりと笑顔で言われて、京一はまた顔を顰めた。
意味が判らない。
行動も思考回路も、全く読めない。
親友としてそれは如何なんだと時折思う事はあろうとも、判らないものは判らないのだ。
それでも京一が龍麻の事を気に入っているのは、変わらない。
「まぁいいや……ほれ、ラーメン食いに行くぞ」
二人の半ば恒例となった放課後のラーメン屋。
いつも通りに誘ってみれば、うん、と頷く龍麻。
しかし、今日の龍麻はすぐには動かなかった。
龍麻の視線は、机の上で静止したビー玉に注がれている。
「龍麻?」
何やってんだ、と問い掛けるも、返事はない。
龍麻は嬉しそうに、楽しそうに、じっとビー玉を見ている。
そんなに何か面白いものが見えるのかと、京一はビー玉に手を伸ばす。
すると、届くか否かという距離で龍麻が手を伸ばし、そのビー玉を攫ってしまった。
「なんだよ、だから!」
「なんでもないって」
「じゃなんで隠すんだよ」
「別に隠してるんじゃないよ」
そう言って、龍麻はビー玉を元あった場所に置く。
そうしてまたビー玉をじっと覗き込んだ。
「意味判んねぇ」
「うん。判んないだろうね」
「教えろよ」
「だーめ」
これまた楽しそうに言うものだから、京一はこれでもかと言うほど眉間に皺を寄せて。
一発殴ってやろうかと物騒なことを考えたが、止めた。
ビー玉を見つめる親友の横顔が、やけに穏やかだったから。
腹、減ったんだけどな。
そう思いつつ、京一は手近にあった席に腰掛ける。
しばらくはビー玉を見つめる龍麻の横顔を見ていたが、直に飽きてしまった。
外は既に夕暮れ時。
窓枠の向こうは、綺麗な朱色に染まっていて。
……それに目を向けていたら。
「教えないよ、京一には」
ビー玉をつんと突いて、龍麻が呟いた。
意味が判らなかったので、聞かなかった事にする。
だから、京一はずっと知らない。
龍麻が本当に見ていたものが、なんなのか。
ガラス越しのキミと、ガラスの世界のキミ。
龍京と言うより、これは龍→京ですね。
うちの京ちゃんは鈍いから……
片思い龍麻。