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何事も、最初が肝心。
【How to, for you】
男同士でも出来るんだね、と。
また唐突に始まった親友の会話に、京一は今度はなんだと眉を顰めた。
毎回思うが、会話の前後関係ナシで突然話題を切り出す癖はなんとかならないのだろうか。
なんの事だと問えばちゃんと説明するので、会話が其処で終わりになってしまう事はないのだが、一々聞くのは面倒臭い。
読んでいた漫画雑誌から顔を上げて、なんのつもりで買ってきたのか、女性雑誌を読んでいる親友に目を向ける。
「……なんの話だ?」
面倒だ面倒だと思いつつ、律儀に京一は訊ねてやる。
こんなに自分は付き合いの良い性格だったかと考え、即“否”の答えが弾き出される。
これで相手が醍醐であったり、小蒔や葵であるなら、特に気に留めることもなく無視するのだが、なんとなく龍麻に対してだけはそうする気にならなくて、こうして訊ね返すのが定番になった。
京一のこの付き合いの良さは、龍麻に対してのみ発揮されるものであった。
問い掛けられた龍麻も、京一同様に顔を上げる。
そして読んでいた女性雑誌を広げて、此処、と文章の一点を指差す。
京一は仕方なく、自分の読んでいた漫画雑誌を閉じ、四つん這いで龍麻に近付いた。
小さな文字でつらつらと綴られたページを眺め、龍麻が指差していた場所に辿り着く。
―――――有名人の同性愛疑惑の記事だった。
二人の男性俳優が、ラブホテルから二人仲良く手を繋いでいたという。
よくある事だ、ゴシップを売りにしている情報誌ならば。
京一は歌舞伎町周辺を主な日常地としているし、オカマバーにも入り浸っている。
多種多様な人間がいる場所だから、有名人がそんな気質であっても、驚きもしなければ軽蔑する事もない。
龍麻が本を下ろすと、二人、近い位置で見つめあう形になった。
「……今のがなんだ?」
「だから、男同士でもセックスって出来るんだなって思って」
しみじみとした龍麻の言葉に、ああその事かと京一も納得した。
性行為とは異性同士の間でする事だと、日本ではそれが常識だ。
龍麻にその手の偏見があるとは思わないが、想像がついていなかったのは間違いないだろう。
ごっくんクラブというオカマバーに京一同様に訪れる事が多くても、彼女達は性的な対象として自分達を見ない。
京一に至っては小学生の頃から世話になっているものだから、彼女達にとって自分達は、弟か息子のようなものではないだろうか。
龍麻が同性間でセックスが出来る事を、知識として知ってはいても、現実に本当にしている人がいるかどうかは、想像とは別の話になる。
つい先ほど、雑誌の記事を見て、ああ本当に出来るんだ、と思ったのだ。
―――――これは京一の推測ではあるけれど、間違ってはいないだろう……多分。
「出来る事は出来るらしいが、色々キツいって話だぜ」
「どんな風に?」
「ケツ穴使うらしいぜ。そんで、女と違って濡れないから、滑らなくて痛いとかな。裂けたりとか」
「痛いの? それって」
「そりゃそうだろ。血ィ出るってよ」
女の処女膜だって、破れれば痛い。
それでも、一応、其処は受け入れる器官として作られているのだ。
“女”の肉体として。
それが男の場合、膣などある訳がないから、行為に使用するのは、本来、排泄器官としてしか使われない後ろの穴になる。
受け入れる器官ではない箇所に捻じ込もうものなら、辛くない訳がない。
つらつらと説明する京一に、龍麻はふんふんと頷きながら、噛み砕くように聞いていた。
こんな話を聞いて面白いのかと思う京一だったが、龍麻はすっかり興味を持ってしまったらしい。
中途半端に止めても「それから?」と聞かれそうなので、話せる事は話してしまおう。
そしてこんな会話をした事は、さっさと忘れてしまうか、後で笑い話にすればいいのだ。
「どうしても血が出るの?」
「ローションでも塗ればマシになるらしい。その辺は女と一緒だな」
「妊娠したりとかしない?」
「男が妊娠する訳ねェだろが」
何をズレた事を聞いてくるのかと、京一は呆れた目で龍麻を見る。
龍麻の顔は至って真剣そのものであったが、それはそれで問題がある気がする京一だ。
男の躯に子供を身篭るような器官はないのが当たり前だと言うに。
「そうなんだ……そっかぁ」
またもしみじみと呟く龍麻。
近い位置にあった視線が雑誌へと戻されて、京一も話はこれで終わりだなと踏んだ。
そして途中だった読書を再開しようと、放置していた漫画雑誌に手を伸ばしかけた、時。
「京一、詳しいね」
「あ?」
「した事あるの?」
質問の意味が一瞬理解できなくて、親友を振り返る。
龍麻は雑誌に視線を落としたままだった。
―――――約5秒の時間が経って、京一は龍麻の台詞の意味を理解した。
「アホかッ!!」
掴んだ漫画雑誌を、力一杯龍麻の顔目掛けて投げる。
雑誌に視線を落としていた龍麻は、鬼と闘っている時の反射神経など何処へやら。
雑誌は京一の狙い通り、見事に親友の顔にクリーンヒットした。
ばしんと盛大な音を立てた雑誌の威力は、それそのものの厚さもさる事ながら、かなりのダメージを与える事に成功したらしい。
龍麻は雑誌を食らった顔面を抑えて、いたい、と呟いた。
それに構わず、京一は腕を組んで憤慨する。
「バカも休み休み言えっての。オレが知ってんのは、全部聞いた話だけだ。誰が野郎となんかするかッ!」
同性愛や変わった趣味趣向に対して、別に悪い印象を持っている訳ではない。
ないが、それと自分自身の主義趣向は全く別物だ。
京一は他者と必要以上の関わりを避けるが、性の対象は通例に漏れず女である。
顔が可愛い男というのはいるが(龍麻もその類に属するのだろうが)、結局、男は男でしかない。
男好きの男が、どんな奴が可愛いだの、どんな男が格好いいだの論じても、京一にはまるで興味のない話だった。
精々、雑学的な知識として脳の隅に置かれる程度の事。
一気にまくし立てる京一の言葉を、龍麻は漫画雑誌の所為で赤くなった鼻柱を擦りながら、平静と聞いていた。
「オレをホモにすんな! 判ったか、龍麻ッ!」
「うん」
最後に念押しのように言うと、龍麻はこっくりと頷いた。
言いたい事を言い切った事で、京一も一先ず気が晴れた。
投げつけた雑誌を龍麻に差し出され、謝る必要性はなかったので、無言でそれを受け取る。
さてようやく続きが読めるとページを捲ろうとすると、
「じゃあ京一、セックスはした事あるんだよね」
かけられた問いに、京一は振り返らなかった。
一時は止めた雑誌を捲る手を、また動かしながら頷く。
「そりゃ当たり前だろ。こちとら健全な男子高校生だぜ」
「そういうものなの?」
不思議そうな龍麻の言葉に、京一は雑誌を片手に持ったまま、肩越しに親友を見返る。
「……まさかお前、まだなのか?」
京一の問いに、龍麻は躊躇う事無く、こっくりと頷いた。
何が不思議なのか判らない、という表情で。
健全な男子高校生である。
誰も彼もがとは言わないが、性欲だって強くなる年頃だ。
溜まれば処理したくなるし、自慰ばかりじゃつまらないし、AVなんかが一人暮らしの部屋に置いてあったって自然な事。
二次元的なものでは物足りなくなったり、実際のものはどうだろう、と興味が湧くのも、何も悪い事ではない。
動物の本能で考えても、性欲というものは、あって当たり前の物だ。
なんとなく、龍麻が淡白なのではというイメージはあった。
京一とつるんでいても、京一の女子更衣室の覗きを一緒にした事はない。
京一が他のクラスメイトと珍しく巨乳アイドルの話で盛り上がっても、龍麻は一向に興味を示さなかった。
―――――だから、龍麻がそんな所謂男の“バカな話”に入って来なくても、まぁ龍麻だし――という感じで済ませていた。
………が、まさか未だに性行為の経験がなかったとは思わなかった。
目が点状態の京一に、龍麻はまた首を傾げる。
「……なんか変なの?」
「え? ―――あ、あぁ、いや……」
人によって初体験の時期に差があるのは当然だし、成人しても童貞の男だっている訳だし、
淡白そうに見える龍麻がそうであったとしても、何も不自然ではない。
醍醐だって小蒔にどっぷり惚れ込んでいる様子を見ると、一皮向けているとは思えないし。
それに、龍麻の今までの環境を思えば、そういう結果になっていても可笑しくはない気がした。
「そうか、お前、東京に来るまで田舎で親父さん達と暮らしてたんだったな」
「うん。父さんと、母さんと、三人だよ」
「……そんなら、そうか……」
京一は小学生の時点で、家を飛び出し、ごっくんクラブに入り浸るようになった。
中学生の頃は特に誰とつるむ事はなかったけれど、何せ身を置いていたのが歌舞伎町―――日本国内有数の繁華街だ。
早熟気味に童貞を脱したのは、事実であった。
それに対して、龍麻はつい最近まで両親と一緒に田舎暮らし。
性に興味を持ったとしても、夜の街とは無縁であったに違いない。
こうして考えると、自分と龍麻の相違点が溢れる程出てくる事に少し驚いた。
今年の春からずっとつるんでいて、まるで昔から一緒にいたような感覚さえ生まれていたと言うのに。
と、其処まで考えていた京一は、じっと強い視線がある事に気付き、思考を現実に戻した。
「なんだ? 龍麻」
見つめていた人物は、当然、龍麻。
当たり前だ、此処は龍麻の一人暮らしのアパートで、此処にいるのは家主と自分だけなのだから。
まだ何か言いたいことがあるのかと問いかけると、龍麻はそろそろと近付いて来る。
やけに神妙な顔をしているものだから、京一は何事かと眉根を潜めた。
「あのさ、京一」
「あん?」
「………童貞って、やっぱり恥ずかしいの?」
ほんのり頬を赤らめて問う龍麻に、京一はぱちりと一度瞬いた。
「…………あー……っと………」
先ほどの自分の反応の所為だろうか。
そんな考えが生まれて、京一は当惑して頭を掻いた。
「いや、まぁ、その……いいんじゃねえか? 別に……そういう奴も、たまには…」
「でも京一、さっきびっくりしてたじゃないか」
「したけどよ、だからって悪いって訳じゃ」
詰め寄る龍麻に、京一はやばい何かマズったかと思いながら親友を宥める。
何故かこの龍麻という人物は、マリアや葵、小蒔、醍醐、遠野には何を言われても動じない癖に、京一の一言一句に過剰とも言える程の反応を示す時があるのだ。
どういう理由で龍麻が京一の言葉に反応するのか、京一にはよく判らない。
判らないが、普段は気をつけるつもりの全くない言葉選びを、龍麻相手には時々だが気にしなければならない事をすっかり失念していた。
「あのな、龍麻」
「やっぱり変なの? 興味がないと可笑しい?」
「いや、そうじゃねえって」
「醍醐君ももうしたのかな?」
「アイツのンな事までオレは知らねェよ」
「クラスの皆は?」
「そんな事興味ねぇっつの!」
「僕だけなのかな? だったら、やっぱり恥ずかしい?」
近付き過ぎだと言う程に近くにある龍麻の顔は、真剣そのもの。
これはどうやって宥めたものかと、京一は頭を悩ませた。
悩ませた、が。
もとより考えることは得意ではない。
あれやこれや考えて妥当な策を考えるよりは、極端と言われようと手っ取り早い解決策を見出す男である。
「あー煩ェッ! そんなに言うなら、今から行くぞ、龍麻ッ!」
安いアパートの壁など、間違いなく突き抜けてしまうだろう声を上げ、京一は龍麻を押し退かす。
声の大きさと気迫に負けてか、龍麻は目を丸くしてぽかんと京一を見た。
それに構わず、京一は学生鞄に入っている財布を掴み、龍麻の腕を引っ張り、立ち上がる。
「京一、何処に行くの?」
「その手の店に決まってんだろ!」
「なんで?」
「お前がやたら童貞を気にするからだろが!」
別段、童貞だからと言って何も悪い事はない。
バカにする連中がいる事は否定し切れないが、当人が気にしなければどうでもいい事だ。
それを、そんなに気になると言うのなら、さっさと捨ててしまえばいいのだ。
「……って事は、やっぱり恥ずかしいの?」
「誰もそうとは言ってねェ。でもお前が恥ずかしいって思うなら、とっとと捨てちまえばもう気にならねェだろ」
実に極端な解決策であった。
が、此処にそれをツッコむ人物はいない。
そう言われればそうなのかも、と納得しかかっている表情の龍麻に、京一もようやく沸騰した頭が落ち着いてきた。
「そーいう訳だから、今から行くぞ。財布持って来い、オレのだけで足りるか判んねェからな」
「……………」
「オレの知り合いが働いてる店があるから、其処にするぞ。あそこなら料金もそこそこ良心的だし…」
その知り合いの店に以前立ち寄ったのがいつであるのか、あまり記憶に残ってはいない。
いないが、京一自身の事は歌舞伎町界隈ではよく知れ渡っている。
此方が覚えていなくても、向こうが京一の事を覚えている可能性は高い。
忘れられていても料金的に問題がなければ、それで良い。
財布の中身はそれほど寒い事にはなっていなかったが、何せ店が店。
考えているよりも大なり小なり差額は生じるものである。
出来るだけ余裕があった方が良い。
龍麻も決して裕福な経済状況ではないが、二人分合わせればなんとかなるだろう、と京一は思っていた。
勝手知ったる態度で、京一は部屋の玄関に向かう。
――――いや、向かおうとした。
「………龍麻?」
親友の気配が追いかけて来ないことに、京一はどうかしたかと振り返る。
見れば龍麻は、京一が立ち上がらせた場所から動いていなかった。
俯き加減の顔は何処か曇りがちで、京一は自分は今度は何を失敗したのかと頭を捻る。
考えた所で判らないのは最初から感じていた(何せ龍麻のスイッチは不思議な所にあるのだ)から、京一は早々に考えるのを放棄した。
それよりも当人に聞いた方が、考えるよりずっと早いし確実だ。
「おい龍麻、どうした? 行きたくねェのか?」
商売女相手にするなんて、と言う人は少なくない。
水商売という職業を良く思っていない人間だって多い。
好きな相手以外としたくない――――と言う人間だって、勿論。
田舎暮らしの長かった龍麻が、そういう考えがあったって、何も不思議はない。
都会で生まれ育った人間の方が、ずっと奔放になるのだから。
此処で嫌がるようなら、童貞は気にする事はないからと言い含めるに留めよう。
嫌がる相手を無理に連れて行くのも忍びない。
履きかけていた靴をまた脱いで、京一は龍麻の立ち尽くす居間に戻った。
「行きたくねェなら別にいいんだぜ。その変わり、童貞だったらどうのってのは、もう気にすんじゃねェぞ」
「うーん………そういう事じゃ、ないんだけどね」
「あん?」
言葉を濁らせる龍麻に、京一は眉を潜める。
他人が見れば怒っているように見える表情だが、龍麻は平静としている。
京一の目付きが悪いのはいつもの事だし、不機嫌そうに見えるのも常の話。
今更一つ二つ不機嫌な顔をされたとて、気にする事ではないのである。
居間に戻った京一に、龍麻は一歩近付いた。
「京一」
「おう」
名を呼べば、なんとなく返事をするのが通例だった。
いつからそうなったのかは判らない、今では条件反射のようになっているけれど。
がしり、と強く肩を捕まれた。
「怖いんだ、京一」
―――――――怖い。
…………何が。
この場合、話の流れからして、風俗店に行く事か、初体験をするという事か―――とにかく、その辺りだろう。
あまりに真髄な目で見つめて呟いた龍麻に、京一は一瞬、呆気に取られた。
いつもふわふわとした笑みを浮かべて、掴み所のない雲のような男。
ふとした瞬間に謎のスイッチが入って、会話の前後関係なく意味不明な事を言うクラスメイト。
しかし敵意を持ってぶつかってきた相手には容赦しない。
仲間を、友達を傷つける相手ならば尚の事、遠慮なくその拳を叩き付ける親友。
鬼と初めて対峙した時でさえ、怯えもしなければ慄きもしなかった。
京一が唯一、背中を任せる事を赦した存在。
―――――そんな龍麻が、怖いと言う。
お前、怖いものなんてあったのか。
そんな台詞が喉まででかかった京一である。
「怖いって、お前……」
「だって初めてなんだよ。僕、そんな店だって行った事ないし」
「別にそんなに緊張するモンでもねェよ。向こうだってそういうの相手にする事はあるんだし、気にする事は」
「でも何かの拍子に傷付けたりしたら嫌だし……」
「だから、大丈夫だっての」
近くにある龍麻の表情は、眉尻が下がって不安そうに見える。
龍麻にしては珍しい表情だった。
つまり、それだけ怖いと言うことなのだろうか。
「初めての奴は大抵ヤリ方判らねェし、最初は向こうがちゃんと教えてくれるから、問題ねェよ」
「だけど………ほら…僕、力強いから……」
龍麻の言葉に、京一は、ああそれかと思い出す。
《力》に目覚めてか否か、龍麻の筋力は人並み以上に強い。
緊張のあまりに加減を忘れて、女性を傷つけてしまわないか心配なのだ。
龍麻が「怖い」と言うのは、恐らく殆ど、その危惧によるものなのだろう。
「……確かに、そりゃ……」
中々動じることのない龍麻でも、性行為となるとそうもいかないのか。
今から此処までナーバスになっていては、いざ初めて何が起こるか判ったものじゃない。
龍麻の力に耐えられるような強靭な構造をした人間は、そうそういないだろう。
女ともなれば尚更の事、鍛えていたってたかが知れている。
童貞のままだというのも気にかかるが、女を抱くのも怖い。
にっちもさっちも行かない龍麻の複雑な心境。
この話題を振ったのは龍麻だったが、此処まで話を広げてしまったのは京一の方だ。
話を放棄してしまう訳にも行かず、京一はどうしたもんかと頭を掻く。
すると、俯き加減だった龍麻が、意を決したような表情で顔を上げ、
「京一、練習させて」
あまりに真髄で真っ直ぐで、真面目に告げられた言葉。
意味を理解しないまま、おう、と反射で答えてしまいそうになった。
寸でのところでそれを飲み込んで、京一は思いっきり龍麻の頭を叩いてやった。
「痛い……」
「自業自得だ。フザケんな」
「…ふざけてないのに…」
だったら尚更、問題発言である。
練習させてくれと、龍麻ははっきり言った。
つまり京一の体で力の加減が出来るようになるまで、セックスのトレーニングをすると言う事だ。
無論、実施で。
京一が龍麻を殴るのも無理はない。
「なんだってオレがンな事されなきゃならねェんだよ」
「だって怖いし……」
「男同士でヤる方がよっぽど怖いだろうが」
しかも初めての相手が男で、クラスメイトで、親友だなんて。
笑い話にするにはあまりにもネタが複雑すぎるし、笑って済ませる話ではない。
少なくとも、京一にとっては。
親友の為なら多少の苦労は甘んじてやろうとは思うが、これは想定外の事だ。
龍麻が龍麻なりに必死なのは認めよう。
しかし、それによって自分が、よりにもよって処女喪失なんて冗談じゃない。
挿入ナシであるとしても、男に抱かれるなんて京一は絶対に御免だった。
が、龍麻も簡単には引き下がらなかった。
「だって京一、僕だってずっと童貞なんてイヤだよ!」
「だから、その手の店に行きゃ済む事なんだよ!」
「女の人に怪我とかさせたくないし」
「気にしすぎだ! そんなに気になるなら、マグロになってろ!」
「それはヤだ。僕だって男だし」
「…………」
龍麻の言葉は最もだ。
初体験だからと、されるがままになっているのは、やはり男としての矜持が許されない気がする。
相手の女は商売であるし、色々な男を相手にしているだろうから、今更気にする事はないかも知れないが、これは自身のプライドの問題であった。
拗ねた顔でまた俯いてしまった親友に、流石に今のは言い過ぎたか、と京一も思った。
思わず出てしまった言葉であったが、京一だって逆の立場なら嫌だと思う。
しゅんと落ち込んだ龍麻は、捨てられた仔犬を思わせる。
耳と尻尾があったら、ぺったり寝てしまっているのは間違いないだろう。
……別に、京一はそういう仔犬を拾ってしまうような性格では、ない、けれども。
――――――けれども。
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